新人ゾンビ 真理子です! (裏)
私はゾンビの真理子。
ゾンビになってから五日目の新人ゾンビです(笑) そして隣にいるのはゾンビの佐藤さん。
私が人間を見つけられなくてお腹を空かして泣いている振りをしているときに、人間の手首を分けてくれたまぬけな優しいお兄さん。バカなフリをしている私に、毎日くだらないゾンビとしての生き方を教えてくれるホントにまぬけで親切なお兄さん。
私達は二人で空き家に暮らしています。佐藤さん、今日は何を教えてくれるのかな?
「真理子ちゃん、今日は昨日の復讐から始めよう」
「昨日、何を教わりましたっけ?」
脳みそが半分吹き飛んでいるせいか、どうも覚えたことをすぐに忘れてしまう……なんてことは嘘で、しっかり覚えています。
「また忘れたの? じゃあ、今日もゾンビウォークを勉強しようか」
「よろしくお願いします!」
佐藤さんは教わったことを忘れても決して怒ったりはしない。なぜだろう? 怒りの感情が欠如しているのかな?
「じゃあ、歩き方の手本をみせるから、よく見ててね」
佐藤さんは足を引きずりながら、ヨタヨタと歩く素晴らしい演技をみせてくれました。うーん佐藤さんは他のゾンビさんみたいに飛んだり、跳ねたりできないのかな?
「佐藤さん、質問してもいいですか?」
「うん、いいよ。何でも聞いてよ」
「最近のゾンビは人間を襲う時に、走ったり、跳ねまわったりするのがトレンドだってお隣の山田さんに聞いたんですけど本当ですか?」
「うーん、そうだね。確かに一部のはっちゃけたゾンビ達が始めたパフォーマンスが広がって人気になったけど、所詮、はやりものだからね。やっぱりボクはこの基本の動きをしっかりマスターすべきだと思うな」
さすが佐藤さん。自分が走ったり、飛んだりできないから、理由をつけて正当化しているのですね。これはなかなか愉快です。
「じゃあ、真理子ちゃん。ボクの様に歩いてみて」
「はい!」
私は佐藤さんの動きをまねて、一生懸命ゾンビウォークをしました。といってもダンスで習ったムーンウォークですが。
「どうですか? 上手くできていましたか?」
「うーん。昨日も言ったけど、真理子ちゃんの歩き方はゾンビウォークというより、ムーンウォークなんだよね。ゾンビになる前にダンスとか習ってた?」
「脳みそ半分吹き飛んでいるので覚えていません!」
とりあえず、バカなフリをしていれば佐藤さんは自分なりの理由を見つけてくれます。からかわれていることも知らずに。
「ま、まぁ、これはこれで次世代のゾンビとしてはありなのかな? ボクも片目がとれているから、そう見えているだけかも知れないし……」
「佐藤さん、私お腹が空きました」
そろそろ、次の段階に進まないと。
「もう、そんな時間? じゃあ、人間を探しに行こう」
私達は人間を探すため市街地にやってきました。
あっさりと人間は見つかりましたが、鉄砲を持って「ヒャッハ―!」しています。怖いです。あの人間は死んでも構いませんね。
「どうしよう、佐藤さん。あの人の脳みそは食べたいけど、鉄砲は怖いです」
「ボクにまかしておいて。銃を持っている人間は要注意だけど、あいつは多分大丈夫だ。ボクに付いて来て」
あの人間は鉄砲を持っているのに佐藤さんは怖くないのかな? 恐怖心が欠如しているのだろうか? 違いますね。何か作戦があるのでしょう。 どっちにしろ佐藤さんの後ろに隠れないと。
佐藤さんは私を連れて他のゾンビに上手に紛れこみながら、人間の背後に回り込みました。
「佐藤さん、こっからどうするんですか?」
佐藤さんがどんな作戦を立てたのか非常に興味深いですね。
「真理子ちゃん、まずは相手のことをよく観察するんだ。あの人間は目の前にいるゾンビばかりに集中して、背後をまったく気にしていない。それに使っているあの銃。あれはショットガンだから慣れていないとリロードするのに時間がかかる。ボクの言いたいこと分かるかい?」
なるほどね。佐藤さんの思考能力は他のゾンビさん達よりも高いですね。これは結構面倒なことになるかも……いけない! 例のセリフを言わないと
「脳みそ半分吹き飛んでいるので分かりません!」
「そ、そうか……つまり、あの人間がリロードしているときに襲うのが絶好のチャンスなんだ」
まずいな。佐藤さん、少し感づき始めたかな?
『カチッカチッ』
「くそっ!!」
佐藤さんが言った通り、どうやら弾が切れたあの人は、リロードにもたついていました。あのバカな人間はもう終わりですね。
「今だ、真理子ちゃん。第一目標は頭をもぎ取ることだ!」
「はい!」
――――
家に戻った私達はニコニコです。お互い顔が崩れているのでホントにニコニコしているかは分かりませんが、気持ちはニコニコです。だってたくさんのデータが取れましたから。
「今日は大収穫だよ! 頭と腕一本とってこれたのは久々だ」
「他のゾンビさん達、くやしがっていましたね!」
私達は早速、頭を二つに割るとむさぼるように脳みそを食べました。勿論、私は食べている振りですが。
あらあら、佐藤さんは動かなくなりました。まぁ仕様がないですね。
「ちょっと真理子。そのゾンビ、殺しちゃったの。結構良いサンプルだと思ったんだけど?」
本棚が自動的にスライドすると、厚さ10センチの鋼鉄の扉が自動的に開き、理香子が文句をいいながら現れました。
「仕様がないですよ。佐藤さん、感が良いみたいでうすうす、私のこと怪しんでいたみたいですから」
私は特殊な対ゾンビ用擬態スーツを脱ぎながら理香子に答えました。
勿論、ここは一軒家ではありません。ゾンビの行動を研究するためにカモフラージュした地下研究施設です。ゾンビが発生して一年。今だ発生原因は分かっていません。
分かっているのは映画のゾンビと違い、人間をエサとするところと見た目以外、ほぼ人間と変わらないということ。勿論、個体差はありますが。
悲しいことですが佐藤さんには、ゾンビを一瞬で殺す薬を食事に混ぜさせていただきました。かなり高価な薬なのでむやみに使うことは禁止されていますが。
「真理子、いい加減ゾンビを名前で呼ぶの止めてくれない。悪趣味よ。まぁ、こんな仕事、あなた以外やりたがらないから大目にみるけど……」
「いいじゃないですか。佐藤さん、結構可愛かったですよ」
どうせこの世界は壊れている。
私の心も壊れている。
さて、今度はどんなゾンビ君をひっかけようかな。