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第七話 豪雨の中の友人


 『裸足で外を歩いたら、足の裏はどのくらい汚れる?』のリベンジ動画撮影のため、再び藤山公園に来ていた僕とまどかだったが、予報よりも早い雨にびしょ濡れになっていた。

 公園の人気スポットの一つである池も普段なら人も結構いるところだが、この激しい雨ではほとんどの人が帰ってしまっていた。

 今のまどかの格好をおさらいしておこう。

 Tシャツにホットパンツ。

 お仕置き要素として、両手を後ろに回して親指同士を結束バンドで縛っている。

 雨が降り始めてからも歩き続けているので、裸足の足はかなり泥だらけになってしまっている。そして全身は、雨のおかげでビッショリんこである。

 雨がゲリラ豪雨並みに強くなってきたので、撮影を中止しようとしたときのことだった。


「あの・・・もしかして、まどりん・・・?」


 僕たちに声を掛ける少女がいた。

 僕とまどかは同時にその少女を見て、声を失った。

 その少女は、菜帆ちゃんだったのである。


 菜帆ちゃんとは、まどかの同級生であり、まどかよりも先にBooTubeに動画を投稿していて、まどかが投稿するきっかけになったチューバーである。

 まどかの方を見ると、菜帆ちゃんを見つめたまま石像のように固まっている。


「まどりん・・・まどかちゃんですよね?」


 バ、バレてるーーーーーーっ!!

 一応マスクをして顔を隠していたのだが、やはり同級生から見たら「まどりん」は「まどか」だと分かってしまうのだろう。

 まどかは固まったまま、全身が真っ白になってしまっていた。

 しかし、このまま雨の中で固まっていても風邪を引くだけだ。


「と、ともかく、雨宿りできるところに移動しよう!」


 女子二人の背中を押しながら、避難を促した。


 藤山公園には、自販機コーナーがある。5台の自販機が置いてあり、ベンチもあって一息つける一角だ。屋根もあるので、ここで雨がおさまるのを待つとしよう。

 幸い、僕ら三人のほかには誰もいない。僕、まどか、菜帆ちゃんの並びでベンチに腰を下ろす。


「は~、すごい雨でしたね~」


 菜帆ちゃんは、いわゆる「お嬢様」タイプの子である。

 小学生の頃はたまにうちにも遊びに来ていて、まどかと遊んでいるのを影からこっそりと見ていたものだ。当時から丁寧な話し方をしている子で、育ちの良さがにじみ出ている。


「動画を撮影していたのですね?」


 ふむ、まどかがまどりんの変装をしていろことから、察したのだろう。

 まどかは愛想笑いを浮かべながら、うなづく。


「な、菜帆りんに見つかっちゃうとは~、へへへ・・・」

「BooTubeでまどかちゃんの動画を見つけたときは、驚きました」

「ほ、ほんと? あたしも、菜帆ちゃんの見つけたときはビックリしたよ・・・っ」

「ところで・・・どうしてずっと両手を後ろに回しているんです?」


 まどかの身体がギクリッ!と震える。


「えっ? あ・・・その・・・これは・・・(汗)」

「こっ、これはだね、より難易度の高い作品にしようと、あえて『かせ』を着けてみたんだよ」


 助け舟を出してやる。

 菜帆ちゃんは「ふーん」と言いながらまどかの縛られた親指を見て、目を丸くした。

 群青色に光る綺麗な髪が背中まで伸びた純和風な女の子で、まどかとは違うタイプの美少女である。


「裸足で歩いていたんですか・・・泥だらけですね」

「ううぅ////」


 まどかは呻き声を挙げ、足をベンチの下に引っ込めてしまう。


「私のところにも、裸足で外を歩いてみてくれってリクエストが、来たんです」

「菜帆ちゃんところにも・・・っ?」

「ええ。 でも、どうやって撮影したらいいか分からなくて・・・」


 菜帆ちゃんなりに、悩みながら動画を撮影しているのだな。


「このあいだの『正座リベンジ』の動画は、お兄さんが撮影したのですか?」

「あ、ああ、そうだよ」

「お兄ちゃんが・・・こうしたらいいって色々教えてくれたの」


 まどかは、菜帆ちゃんの動画を見ていたが、菜帆ちゃんもまた、まどかの動画を見てくれているらしい。


「まあ、そうなんですね! とってもステキな動画でした!」


 両手を胸の前でパンッ!と合わせて、賞賛してくれる菜帆ちゃん。

 悪い気はしない・・・どころか、すごく嬉しいゾ・・・!


「な、何か飲む? ご馳走するよっ」


 ポケットから財布を取り出す。

 うむ、小銭は十分ある。


「あたしオレンジジュース!」


 妹が遠慮なく注文してきた。


「いいんですか? じゃあ私は・・・ミルクティーを・・・」


 我が妹と違い、菜帆ちゃんは遠慮がちに飲みたいものを伝えてくれる。

 僕は自販機でミルクティーを買い、菜帆ちゃんに手渡す。次にオレンジジュースを買い、まどかの横に置いた。


「ちょっと・・・アニー・・・これ取って」

「どれ?」

「このっ、親指縛ってるのっ」

「なぜ」

「飲めないでしょっ!」


 やれやれ、手間のかかる妹である。

 ニッパーでまどかの親指を縛っている結束バンドを切る。「ふー」と言いながら親指をさすったまどかは、缶ジュースを開けてグビリと飲んだ。


「お二人は、仲がいいんですね」

「えっ、そ・そう?」

「羨ましいです。 私もお兄ちゃんが欲しかったです」


 よし、君のお兄さんになってあげよう。

 今から僕のことを「お兄ちゃん」と呼んでごらん。と、思ったけど言わなかった。


「菜帆ちゃんには可愛い弟がいるじゃん」

「えー、全然可愛くないですよ~、生意気だし」


 まどかも生意気なところがある。

 上から見たら、妹や弟は生意気なものなのだ。


 しばらく他愛もない話を続けていると、次第に雨は弱まっていった。

 これなら撮影も再開できそうだが。


「あ、私そろそろ帰りますね。このくらいなら走って帰れそうなので!」

「ああ、じゃあ気をつけて。転ばないようにね」

「はい、ありがとうございますっ! 今度私のことも撮影してくださいね☆」


 菜帆ちゃんは僕に向かってウインクをすると、そのまま走り去って行ってしまった。

 まどかを見ると、菜帆ちゃんの走っていった方をずっと見ている。

 なんだろうね、菜帆ちゃん、僕に惚れたのだろうか?


「はは・・・菜帆ちゃん、撮影して欲しいってさ」

「む~~~! アニーは、あたしのアニーなのに・・・っ(小声)」

「撮影、再開しようか」

「うん・・・」


 何も言わないのに、まどかは両手を後ろに回してきた。

慌てて新しい結束バンドを取り出し、まどかの親指を縛る。素直すぎるまどかの行動に、ちょっと驚いてしまった。

雨は弱まったとはいえ、止んだわけではないし、地面は水溜りが至る所にできている。にもかかわらず、まどかは裸足のままぬかるんだ地面に踏み出す。


「うえぇ・・・気持ち悪い・・・////」


 公園の池の周りを歩かせ、再び自販機のベンチまで戻ってきた。

 ベンチの上に膝で立たせ、足の裏を揃えて撮影する。


「今日は雨が降っていたので・・・足の裏はすごく汚れちゃいました//////」


 雨で軟らかくなった泥が、まどかの足指の間にまで侵入している。土踏まずも泥に覆われてしまい、綺麗だった足の裏は見る影もない。

 まどかの親指を縛っている結束バンドを切って、足の泥を落とすように指示する。まどかは手の平で足裏全体の泥を払い落とし、指で足指の間の泥を落とす。

 カメラで一連の動作をアップで映す。

 泥は落ちても、完全に取り除くことは出来ないため、結局足の裏は汚れたまま撮影を終えることにした。まあ、まどかの汚れた足の裏を見たい欲求には十分応えられる動画に編集できそうだ。


「よし、じゃあ帰るぞ」


 公園の水飲み場で足を洗うまどか。

 雨はすっかり上がり、ちらほら人も戻ってきていた。

 天気予報め・・・・。



 翌日、まどかが学校から帰ってきた。

 ちなみに僕は今日の講義が休講になり、部屋で昨日の素材を編集していたところだ。


「ただいま~」

「おじゃましま~す」


 む、友達でも連れてきたのか。

 玄関まで出迎えてみると、制服姿のまどかと共に菜帆ちゃんが立っていた。


「あ、お兄さんこんにちわ! おじゃまします♪」

「やあ、いらっしゃい。遊びに来たの?」


 まどかが苦虫を噛んだような微妙な表情をする。


「あのっ、今日は私の正座を撮影してもらいたくて、来ました!」

「えっ?」


 今、菜帆ちゃんはなんて言った?

「私の正座を撮影してほしい」みたいなことを言ったような?


「あのね、今日朝から菜帆ちゃんがあたしのところに来て・・・」


 モジモジしながらまどかが今日の出来事を話してくれる。

 それによると、菜帆ちゃんも僕に動画を撮影して欲しいのだそうだ。

 特に『正座でリベンジ』の動画がお気に入りのようで、同じテーマで自分も撮影して欲しいとのこと。

 ほお。

 あの執拗にまどかの足の裏を撮影した正座リベンジ動画が、お気に入りですか。

 ともかく、僕はまどかと菜帆ちゃんを自分の部屋へと導いて行った。



つづく



2017/10/06 体裁を整えました。

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