第六話 野外撮影のリベンジ
藤山公園を裸足で歩くまどかを撮影した動画。
砂利の上を歩かせているところで、あまりの足裏の痛さに撮影をギブアップしてしまったまどかだが、リクエストに挑戦して失敗した作品として一つの動画に仕上げ、『BooTube』にアップした。
前回の「裸足で正座」動画が好評だったこともあり、再生数は順調にカウントを伸ばしている。
そして、ありがたいことに今回もコメントを頂戴した。
<コメントの数々>
・頑張って!可愛い!
・足の裏痛そう・・・
・草になりたい
・失敗したので、お仕置き!次は両手を後ろ手に縛って歩いてください
・リベンジ、期待しています
・汚れてるのに、足裏きれい!ペロペロしたいです!!
例によっていささかおかしいコメントもあるようだが、概ね、好評なようだ。
夕食を終え、僕はまどかを自室へと呼んだ。
「新しい動画に来たコメント、もう見たか?」
「あ、まだ見てない。もうコメント来てるの?」
パソコンを覗き込むまどか。
コメントを見て、顔を赤らめつつ、口がわなわなと震えている。器用な表情である。
「ペ・ペロペロって・・・////」
「おまえの足の裏なんか舐めたって、美味しくないのにな」
「なっ! 何言ってるの・・・!(怒)」
「どうした? 足の裏、舐めたら美味しいの? 舐めてやろうか?」
「なな、ななな・・・!? バカじゃないのっ!?(超怒)」
まどかはプリプリ怒っている。
「この・・・草になりたいってどういうこと?」
「あれだよ、お前の足の指に挟まってた草のことだろ」
裸足で歩いていたまどかの足の指に草が挟まって、それをアップで撮影した。
今回の動画の中でも、素足フェチにアピールする売りポイントのひとつだ。
「お前の足の指の間に挟まりたいんだな」
「////」
顔を真っ赤にして黙ってしまった。
「よかったじゃないか、お前の足、ファンが何人か出来たな」
「足の・・・ファン・・・」
複雑な気持ちがにじみ出ている。
立ったままのまどかは足を伸ばしたり、足の裏を見たりしている。
「実際、裸足で歩いてみてどうだった?」
「どうだったって・・・うーん、人の目が少し・・・恥ずかしかった////」
ふむ、人の目か・・・このときの撮影時、公園の森にはほとんど人はおらず、誰ともすれ違うこともなかった。にもかかわらず恥ずかしいというまどかは、まごうことなき「恥ずかしがり屋さん」だ。
「だって、裸足のまま公園の中を歩くなんて、おかしいもん////」
そのおかしい状況を見たい人が、まどかの動画を楽しんでいるのだ。
「知ってる人に見られたら、もう学校に行けないよ・・・」
ちょっと大げさに感じるが、まどかはまだ中学一年生だ。
あくまでセーフである範囲を超えないように動画を作ってはいるが、本人の羞恥心が勝ってしまっては、これからの動画作成に支障をきたすかもしれない。
今はまどかのモチベーションを引き出すことを最優先しよう。
「菜帆ちゃんの動画、見てみようか」
菜帆ちゃんとは、まどかの同級生で幼馴染でもあり、Boo子としてはまどかの先輩である。
まどかは菜帆ちゃんの動画を見て、自分も動画を投稿するようになった。
僕はまだ、菜帆ちゃんの動画を見ていなかったので、ここでまどかと一緒に見ようと思う。
まどかに教えてもらいながらBooTubeのサイトで検索すると、菜帆ちゃんの動画が出てきた。
「お、裸足で正座の動画もあるね」
「ほんとだ・・・これまだ見てない」
おそらく、まどかの動画にコメントをくれた人と同一人物のリクエストで撮影した動画なのだろう。
どれどれ、菜帆ちゃんの素足は・・・と、再生ボタンをクリック。
『は~い、菜帆りんで~す♪』
ノリがまどかと一緒である。
まどかと同じように、マスクで顔の半分を隠している。
やはりまどかの動画に来たリクエストと同じだ。正座をして、足の裏がどうなるかをレポートする内容だった。
最後まで見てみたが、その内容は満足のいくものではなかった。動画の大部分が菜帆ちゃんの正座した姿を正面から撮影したもので、菜帆ちゃんの足の裏は最初と最後にちょっと写っただけだった。
コメントを見ると、案の定「違う、そうじゃない」というコメントが寄せられている。
菜帆ちゃんは、カメラを固定して一人で撮影しているようだ。
「菜帆ちゃんってさ、兄弟はいないの?」
「弟がいるよ」
弟か・・弟じゃ、動画の演出は無理・・・かもな。
そもそも姉がチューバーであることすら知らないだろう。
まどかよ、お兄ちゃんがお前のお兄ちゃんで、ほんとに良かったな。
「まどか、お前は菜帆ちゃんよりいい動画が作れるようになる。いや、俺が作れるようにしれやる!」
「しれやる?」
「し、してやる、だ!(汗)」
明日はリベンジ動画を撮りに行こう、ということで解散した。
───
翌日の空は、どんよりと曇っていた。今にも降り出しそうな空模様。テレビの予報では、夕方から降り始めるとのこと。
今の時刻は15時。降り始めまでまだ余裕がありそうだな。
「まどか、撮影に行くぞっ」
「え~、なんか降りそうだよ~」
大丈夫。予報では夕方まで降らないみたいだから。
渋るまどかをなだめ、藤山公園へと向かった。
公園内の森の入り口まで来て、撮影を開始する。
マスクを着けるまどか。
おっと、今日は前回の失敗のお仕置きを”要素”として入れるんだった。
「まどか、先に裸足になっておけ」
「え、そうなの? 靴下脱ぐシーンが重要だとか言ってなかったっけ?」
今回は、違うのだよ。
シューズと靴下を脱いだまどかは、不思議そうにしている。
「後ろを向いて、両手を後ろへ回して」
「??」
言われるままに後ろを向くまどか。
後ろに回された両手の親指同士を合わせて、取り出した結束バンドで縛る。
「なっ、何するのっ!?」
「コメントにあっただろう? お仕置きで両手を縛って歩いてって」
「そんなのあったっけ?!」
縛った結束バンドの余ったケーブル部分をニッパーで切り捨てる。
今日のまどかは、Tシャツにホットパンツ。
後ろ手に縛られた姿は、なかなかグッと来るものがある。
「し・縛る必要なんてあるっ!?////」
「追加リクエストと思って我慢しろ。これをするのとしないのでは、再生数の伸びが全然違うぞ」
「ほんとにぃ・・?」
疑わしい目線を送ってくるまどか。
怯えることはないぞ、(ギリギリ)大丈夫だ(たぶん)。
「さ、自己紹介、どうぞっ」
僕は張り切って、カメラを構えた。
両手を後ろに縛られたまま、慌てふためくまどか。
「ま、マドっ子まどりんで~す」
声が震えている。かわいい。
「今日は、前回失敗してしまった裸足で外を歩くリクエストの、リベンジで~す・・・」
ためらいつつ、後ろを向いて両手が縛られていることを示す。
「前回は失敗しちゃったので、お仕置きとして両手を縛られています・・・////」
両手をモゾモゾ動かすが、結束バンドで縛られた親指は開放されない。
そのまま左足を挙げ、足裏をカメラに見せるまどか。
「今の足の裏は・・・こんな感じです////」
足の裏をアップで写す。
多少の砂が付いている程度で、まだほとんど汚れてはいない。
まどかは、地面の感触を味わうようにゆっくりと歩き始めた。
森に入ってすぐのところに、斜面を下るように丸太で組まれた階段がある。
前回とはコースを変え、今日はこの丸太の階段を歩いてもらう。
丸太に足を乗せると、土踏まずが丸太に押されて形を変える。
そんな足の表情も逃さず撮影する。
「棘が足の裏に刺さりそうで、怖い・・・」
確かに、階段を構成している丸太は朽ち掛けていて、裸足で歩くのは危険かもしれない。
だが安心してほしい。万一を考え、消毒液・絆創膏を持参している。
「ちゃんと怪我をしても大丈夫なように、救急道具を持ってきてるから」
そう言った瞬間、周りの木々がざわめき始めた。
なんだと思ったら、雨が降り始めたようだ。
「アニー、雨が・・・」
「このくらいの雨なら平気だ。撮影を続けよう」
予報より早く降り始めたな。僕もまどかも、傘を持ってきていない。
しかし、このまま濡れていくまどかを撮影するのも面白い。
「濡れた土で滑るなよ」
「うん・・・」
森の葉を打つ音は、次第に大きくなって行く。
足元の土は雨を受け、軟らかさを増す。
まどかが足を踏み出すたび、足の裏には泥がへばり付く。
「気持ち悪いよぅ~(泣)」
やがて、森を抜けて池のある場所へと出た。
雨はさらに激しくなり、僕らのほかはほとんど人影は見えなくなっていた。
僕はカメラを濡らさないように、ハンカチで庇いながら構える。
僕もまどかも、もはやびっしょりになっていた。
ちょっと離れたところを、一人の少女が走って行く。
あの子も、突然の雨に襲われて、帰るところなんだな。
その直後、雨が今までにないほどの強烈さを出してきた。
「きゃーーーーっ! びしょ濡れーーーーーっ!!!」
このままでは肺炎になりかねない。
さすがに撮影を中止しようと思ったそのとき・・・
「あの・・・もしかして、まどりん・・・?」
僕たちに声を掛ける少女がいた。
さっき走っていた少女である。
僕もまどかも「え?」と彼女を見る。
その少女は、菜帆ちゃんだった。
つづく
2017/10/06 体裁を整えました。