第五話 野外撮影のまどか
先日アップした『裸足で正座してみた(リベンジ!)』の反応は、なかなか上々だった。
数日が経過した今でも再生数は上昇し、今や5000回になろうとしている。
それに気を良くしたまどかは、次の動画のネタとして「裸足で外を歩いたら、足の裏はどのくらい汚れる?」を実行しようとしていた。
もちろん演出・撮影担当は、この僕だ。
今度は野外での撮影ということもあり、事前に下見が必要と考えている。
うちの近所に、ちょっと大きな公園がある。そこで撮影が出来るか、散歩がてら見てくるとしよう。
「お~い、まどかぁ! 散歩行くぞ~!」
「いってらっしゃ~い!」
・・・・・・・。
お前の動画のために下見に行くというのに、ついて来てくれないのか・・・。
しかたないので、一人で公園へ行く。
我が家から徒歩で十分程のところに、その公園はある。公園の名称は「藤山公園」。およそ半分が森に覆われ、鯉のいる池やちょっとした丘もあり、休日は家族連れなどで賑わう公園だ。
平日の夕方なら、人は少ないと思う。
この公園の森は、傾斜の緩やかな斜面を覆っていて、至る所に丸太製の階段が組まれている。ここを裸足で歩かせたら面白いかも。
ちょっと歩くと、森の中に一箇所だけ木々が開けていて、地面には砂利が敷き詰められている場所を見つけた。ふむ、ここも歩かせてみよう。不揃いな砂利の上を歩くことによって、まどかの素足がどんな表情を見せるのか、楽しみだ。
帰宅して夕食後、まどかを部屋に呼ぶ。
「次の動画の撮影場所が決まった」
「どこ?」
立ったまま左足を軽く挙げ、左手で足の裏を触るまどか。
裸足で外を歩くという、ちょっと常識はずれな行為に躊躇する気持ちがあるのだろう。意識がモロに足の裏に行ったのが分かる。
「藤山公園だ」
「ああ・・・あそこ」
近所なので、当然まどかも知っている公園である。
森や池の周りなどを裸足で歩いてもらうことを伝えた。
「うん・・・頑張る」
ついでに、気になっていることを訊いてみよう。
「ところで、どうしてまどかはBooTubeに動画投稿なんかするようになったんだ?」
「えっ? そっ、それは・・・」
モジモジするその様は、実に可愛い・・・が、なかなかその先を言おうとしない。
「べつに言いたくないなら言わなくてもいいがな。知っておいた方が、動画作りの参考になるかなって思っただけだ」
「い、言うよ・・・あのね、菜帆ちゃんって知ってるでしょ」
菜帆ちゃんとは、まどかの同級生であり、幼馴染でもある子である。うちにも何度か遊びに来ているな。
まどかに負けないくらいの美少女である。まどかとはタイプの違ういわゆる「お嬢様系」である。
「菜帆ちゃんがね、チューバーだったの・・・」
「なにっ!?」
これは驚いた。
あの清楚そうな菜帆ちゃんが、チューバーだったなんて。
まどかによると、同年代の女の子の現在の流行をBooTubeで調べているうちに菜帆ちゃんを発見したらしい。菜帆ちゃんも動画ではマスクをしているため、最初は似ているなぁとしか思っていなかったが、いくつかの動画を見て、現実の菜帆ちゃんを観察するうちに、菜帆ちゃん本人であると確信したらしい。だが、直接本人に動画のことを確認してはいないとのこと。菜帆ちゃんの動画を見ていたら、自分も動画を投稿したくなった、というのだ。
今度、菜帆ちゃんの動画を見てみよう。
翌日は、快晴だった。
僕とまどかは、藤山公園に来た。
今日のまどかの格好は、Tシャツの上にキャミソールを重ね、下は真っ白なキュロット。そして紺のハイソックスを履いている。
ブランコや砂場のあるプレイエリアをブラブラと歩く。
「この公園、久しぶりに来た~」
伸びをしながら新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むまどか。うむ、健康優良児だ。
やがて、森に入るところへやってきた。
現在の時間は16時過ぎ。回りには数人の子供がいる程度で、ほかに人は見えない。
「じゃあ、ここから始めようか」
「う、うん・・・っ」
ポシェットからマスクを取り出して着ける。
森の入り口に立ってもらい、僕はカメラを構えてまどかの全身と捉えるようにする。
指でゴーサインを出して、撮影がスタートした。
「は、はいっ、マドっ子まどりんで~す!」
まだまだぎこちなさはあるものの、以前よりは硬くなくなってきた。
Boo子としての自覚が芽生えつつあるのだろう。
「今日は、リクエストで頂いた『裸足で外を歩いたら、足の裏はどのくらい汚れるか?』というのを検証してみたいと思いますっ」
リクエストの内容もスラスラと言える。
「どこを裸足で歩くか考えたんだけど、道路じゃ危ないから、公園の森を歩くことにしましたっ」
風がなびいて、森の木のざわめきを呼ぶ。
「それでは早速、裸足になりま~す////」
履いていたシューズを脱ぎ、靴下も脱いでシューズの中に押し込むと、カメラのほうへテテテッと寄って来て僕にシューズを渡すまどか。数歩下がるとカメラに背を向けて、右足をヒョイと挙げて足裏をこちらに見せる。
「まだ足の裏は汚れてません・・・////」
まどかの足の裏をアップで捉えると、太陽の光と相まって、まぶしいほどに白く光っている。これからこの足裏が汚れていくと思うと、ワクワクするな!
森へ入って行く道を歩き始めるまどか。
道といってもそれは雑草を取り除いただけの土むきだしの道で、石もあれば木の根っこが露出しているところもいっぱいある。
まどかは恐る恐る一歩ずつ、裸足の足を踏み出している。
「土の感じが・・・冷たくて気持ちいいです////」
はじめは、気持ちよさそうに歩いていたまどかだが、次第にその様子は変わっていった。大き目な公園ではあるが、手入れが完璧に行き届いているかといえば、そんなことは無いようである。去年の落ち葉がいまだに残っていたり、生えてきた雑草がそのままの箇所が至るところに残っている。
裸足で落ち葉を踏んでしまうまどか。
「あっ、葉っぱが・・・」
足を振ってもくっ付いた落ち葉が取れず、土に足の裏を擦り付けてそれを取ろうとする。
落ち葉は取れたが、代わりに土がたっぷりとまどかの足裏に纏わり付いた。
「あーん、気持ち悪い・・・////」
立ち止まっては足の裏を見る仕草をする。
いつの間にか、左足の指の間に、草の切れ端が挟まっている。
「おい、左足に草挟まってて面白くなってるぞ」
「えっ、やだ! 恥ずかしい!」
「じゃ、足を出せ。アップで撮るぞ」
「へ?」
僕の声は、編集時に消す。
まどかの左足にカメラを近づける。
カメラの前で、左足の指を広げたり動かして、草を落とそうとするまどか。
いいぞいいぞ、こういう仕草が喜ばれるんだ!
やがて草が取れて再び歩き出すと、木々が開けた場所に出た。砂利が敷き詰められている場所である。
「その砂利の上を歩いてみよう」
「ええっ、裸足のままで!? 痛そうだよ・・・っ」
渋るまどかをなんとか宥め、砂利の上に一歩を踏み出させる。
「あっ・・・くぅ・・・っ!」
よく見ると、砂利は角のある尖った石ばっかりだった。確かに、こんなところを裸足で歩いたら痛そうだな。
ゆっくりと次の一歩を踏み出すまどか。砂利の鋭利な角が足の裏を突く。
膝を振るわせたまま、まどかは歩けなくなってしまった。
数秒の沈黙の後、まどかはマスクをしていても分かるほどの泣きそうな表情をして、
「もう無理・・・////////」
と、訴えてきた。その表情を見て、突然昔のことを思い出した。
まどかがまだ幼稚園の頃だったと思う。
小学生になっていた僕はまどかと二人で、近所で開催されていた夏祭りに来た。ちょうどこの藤山公園のすぐ横にある神社でやっていたお祭りだ。
出店を見ながらまどかと歩いていたら、いつの間にかまどかがいなくなっていた。
どうせ金魚すくい屋の金魚を見ているか、たこ焼きを焼いているのをのんきに見ているのだろうと思って探したが、まどかは見つからなかった。
焦ってきた僕は迷子の呼び出しをしてもらおうと、お祭りの運営本部にやってきた。
そこに、まどかがいた。
椅子に座らされていたまどかは、僕を見ると突然泣き出し、駆け寄ってきてヒシッと抱き付いてきた。
まどかを見つけてホッとした僕だったが、同時に形容しがたい気持ち良さを覚えた。
まどかの泣きそうな表情を見て?僕は気持ち良くなっているのか?
その不思議な感覚は久しく感じていなかったが、今目の前で砂利の上に裸足で立ったまま泣きそうになっているまどかを見ていると、いとおしい気持ちと一緒に得も言われぬ心地良さが湧き上がってくる。
あのときの「快感」だ。
僕はそういうヤツだったのか、そうなのか。
「アニー・・・(泣)」
まどかがギブアップ寸前だ。
砂利でなく土の場所にまどかを移動させ、膝をついて足の裏を見せるように命令する。
「膝ついたら汚れちゃうじゃない!」
「そんな汚れた足の裏で、いまさら膝の汚れなんて気にするのはバカバカしいと思うぞ」
「ううぅ~」
文句を言いながらまどかは土の上に膝をついて、足の裏を揃えてこちらに向ける。
カメラでまどかに近づくと、土に汚れた足の裏は砂利の上に立っていたせいで至る所が凹んでいる。あの形の良い綺麗な足の裏が、無残な状態になってしまっている。
そんな可哀想なまどかの足裏を存分に映すと、まどかを立たせてエンディングの収録シーン。
今回は撮影が途中で終わってしまったということで、「失敗」という形のエンディングを作ろう。
想定外ではあるが、これはこれで面白い展開になると思う。
「マドっ子まどりんです・・・今回は、もっと裸足のまま歩こうと思っていましたが・・・」
土の上に裸足で立ったまま、両手を胸の前で合わせ、悲しげな目をする。
まどかは、結構演技派なのかも知れない。
「無謀にも砂利の上を歩こうとして・・・歩けなくなりました(泣)」
目を閉じ、一拍置いてから顔を上げるまどか。
「近いうちにリベンジしたいと思います! 今日はこれで終わりです!」
ペコリと頭を下げるシーンで、撮影は終了となった。
途中で終わってしまったとはいえ、動画の素材としては十分な撮影ができた。
あとは帰って、編集してアップロードするだけである。
「そのまま裸足で帰ってみるか?」
「無理に決まってるでしょ!」
怒られてしまった。
公園の水飲み場で足を洗ったまどかは、靴下は履かずにシューズを履く。
「靴下、履かないのか」
「今日はもういいの、このままで」
こうして僕とまどかは、撮影を終えて家に帰った。
つづく
2017/09/25 体裁を整えました。