第三十七話 素足と粘土とシャワー
「え・・・えっ、それ、壊すの!?」
まどかの足元に置いたのは、先程まどかに粘土で作らせた異生物・・・もとい、ウサギである。
紙粘土ではないので、堅くはなっていない。まどかの素足で簡単に踏み潰せるだろう。
「せっかく作ったのに・・・踏んで壊すなんて、できないよっ!」
まどかよ、この生き物はなんだったかな?
「な、なんだったかなって・・・ウサギだよ・・・」
まどかの心許ない声。かすかに震えている。
そう、どうみてもこれは、ウサギには見えない。
僕はタブレット端末を持ってきて、まどかに見えるようにしながら操作をする。
「何をしてるの・・・?」
ゲオルグ先生の画像検索で、ウサギを検索する。
可愛らしいウサギの画像がズラリと表示された。
まどか、この可愛い生き物こそが「ウサギ」というものなのだぞ?
「あ、あたしが作ったのもウサギじゃん・・・」
キリンのように長い首の四つ足の生き物。
頭部から突き出た二つの板状のなにか・・・。
まどかがウサギと言い張るのも分からなくもない。がしかし、ウサギが持つ可愛らしさというものは皆無である。
この生き物は、泣いている。自分の存在が分からなくなって、泣いているのだ。
「泣いているって・・・そんな・・・」
自分の存在が不確かなことほど、悲しいことはないのだよ。
その生き物、いや粘土細工は、生まれ変わりたいと思っている。そんな声が聞こえないか?
実際、聞こえるはずもないのに、粘土細工に耳を寄せるまどかを見て、いじらしく思う。
「さあまどか、その可哀想な粘土細工を無に帰してやるのだ!」
「む・・・む? 帰すって・・・?」
まどかには難しすぎたか。簡単に言えば、踏み潰せってことだよ。
「やっぱりそうなの!? なんか抵抗が・・・っ」
無に帰した粘土で、また新しいウサギを作ればいいじゃないか。
今度はちゃんとウサギの写真を見ながら、作るんだぞ。
「もうっ! 分かったよ! 踏むから!」
粘土細工の前に立って、右足を上げるまどか。すかさずカメラを構えて這いつくばった。
「踏みますっっ!!!」
力強く右足を粘土細工に下ろす。まどかの足裏に押されて、粘土は音もなく潰れていく。
まどか、少し足の指を開き気味で踏んでくれ。
「えぇ・・・?」
困惑しながらも、僕の指示に従って足の指を広げるまどか。
再度粘土細工を踏む。すると、足の指の間から押しつぶされた粘土がニュルリと出てきた。
「ピエエェェ・・・気持ち悪ぅぃ・・・」
いいぞ! まどかの素足と潰された粘土のコンビネーション!
カメラを近づけてアップで足指を撮影する。
もっと足の指を動かして!
すでに自棄になっているまどかは、僕の異常な指示を疑いもせずに実行していく。
「はううぅ・・・ぐちゃぐちゃぁ・・・っ」
バンバンと足を弾ませて粘土細工を踏み潰す。すでに粘土は、ペチャンコになっていた。
「うえぇ・・・足の裏も足の指も、粘土だらけだよぅ・・・;;」
気の利いたセリフを言うようになった。そんなまどかの成長を喜ぶ僕。
よし、では場所を変えよう。
「へ? ど、どこに?」
風呂場である。
足が粘土だらけなので、お兄ちゃんが抱っこして連れてってあげよう。
僕はヒョイとまどかをお姫様抱っこしてあげた。
「ひゃあっ////」
かっこいいお兄ちゃんに抱っこされて、嬉しいだろう?
「アホっ!」
まどかに、アホと言われてしまった。
照れちゃって、可愛い妹である。
風呂場に到着した。
まどかをお風呂のイスに座らせる。
さあ、もう何をするか、分かるね?
「ぇ・・・・ぇ・・・あの・・・裸に・・・なるの・・・?////////」
・・・・・・・・・。
・・・・・・・へ?
モジモジしながらなんてことを言うのだ。
「え? だってお風呂って裸になるところでしょ?////」
顔を真っ赤にしながら言うことは、間違ってはいなくもないが、今はそうじゃないことはちょっと考えれば分かることだろうに。
「えー? じゃあ、何をするの?」
キョトンとしている。こういうのを“アホ可愛い”と言うのだろうな。
ここで粘土で汚れた足を洗うところを撮影するんだよ。
そう伝えると、ホッとした様子を見せるまどか。
「なんだー、てっきりあたしのシャワーシーンでも撮るのかと思ったよー。良かったー」
ほんとに、アホ可愛い妹だ。。。
しかしまあ、素足のシャワーシーンではあるんだけどね。
ここでの撮影意図を理解したまどかは、スポンジにボディソープを垂らすと、準備オーケーとサインをくれる。
「粘土で汚れちゃった足を綺麗に洗いまーす♪」
まどかがスポンジで足を丁寧に洗うところをじっくりと撮影する。
そういえば、女の子が体(の一部)を(お風呂で)洗うのを見るのって、初めてだな・・・。
そう考えると、なんか結構いやらしいことをしているような気がしてきて、申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
「足の裏もちゃんと洗わなくちゃね」
なかなか色っぽいポーズで足の裏をスポンジで洗うまどか、思わずカメラ越しに見とれてしまう。
「足の指の間も洗うよ」
手の指を使って丁寧に足の指の間も洗うまどか。
ふむふむ、だからまどかの素足はいつも綺麗なんだな。
まどかが両足を綺麗に洗うまではほんの五分くらいだったが、なかなかに濃密な映像を撮れたと思う。
撮影を終えた僕たちは、それぞれの部屋に戻っていった。
僕は今撮影した素材を編集して、動画に仕上げる。
まどかはペチャンコになった粘土で、またウサギを作るらしい。今度は、一目でウサギと分かるものを作ってほしいものだが。。。
つづく
2017/10/28 体裁を整えました。




