第三十三話 まどかの悩み
夏休みも中盤に入ったある日の午前中。
朝食を食べ終えたまどかは、シャワーを浴びている。
僕は、居間でテレビをダラダラと見ていた。
「ひ・・・ぴやぁぁ~~~~っ!!」
脱衣所の方から、変な声が聞こえた。
まどかが悲鳴を上げたようだ。それにしても情けない声である。
脱衣所の前まで行き、ドア越しに声を掛ける。
「どうした、ゴキ〇リでも出たのか?」
「アニー!? ち・違うよ・・・っ」
ゴキ〇リが出たわけではないんだな、良かった。
ではいったいどうしたというのだ。
僕は、ドアを開けた。
「えっ!? きゃあーーーーーっ!!」
てっきり裸のまどかがいるものと思っていたが、Tシャツを着ていた。下はパンツだけだったが。
Tシャツの裾を下に引っ張ってパンツを隠そうとする。
なんだよ、ちょっと前まで家の中ではパンツ丸出しで歩き回っていたくせに。中学生になった途端に大人ぶっちゃって。
「ででっ、出てってよっ! はやくっ!!」
すごい剣幕で追い出されてしまった。
僕はまどかの悲鳴が聞こえたから、助けようと思ってかけつけたのに・・・。
しかたないので、僕は居間に戻ってテレビを見続けた。
着替えを終え、髪を乾かしたまどかが居間へやってきたので、何があったのか訊こうとしたが、言葉を濁されて答えてはくれなかった。
そしてお昼ご飯の時間になった。
今日のお昼は、お兄ちゃん特製のチャーハンだぞっ☆
まどかのお皿に山盛りのチャーハンをよそってあげた。
しかし、五口くらい食べたところで、まどかは「ごちそうさま」と言ってスプーンを置いてしまった。
いやいやいやっ、今日のチャーハンはすごく上手に出来たと思うんだが!?
「ぅ・うん、美味しかったょ・・・」
じゃあなぜ残すのさ。せっかく山盛りにしたのに。
まどかは俯いてしまった。食べない理由を言いたくないのだろうか。
お兄ちゃんが一所懸命に作ったチャーハンを残すなんて、許しませんよ!
食べ物を粗末にするような子は、お仕置きしちゃうから!
まどかの体がビクッと震えた。
ふふふ、お仕置きという単語に反応したな。
さあ、お仕置きが嫌なら言いなさい。ご飯を食べない理由を!
すると、まどかは泣きそうな顔を上げた。
「た・たた・・・体重が・・・っ、増えちゃった・・・の・・・」
ほお、体重が増えた・・・ふむ。
まあ、女子には大変ショックな出来事なんだろうな。
しかし今のまどかを見ても、細くはないにしても、太っているようにも見えないが・・・?
むしろちょうどよいスタイルに見える。
「ダメなのっ、体重は増えちゃダメなのっ!!」
まどかは中学生なんだし、成長期だから、体重が増えて当然なんじゃないの?
「夏休み明けに太った体で学校になんて行けない・・・! ダイエットする!」
まどかは僕の言うことをさっぱり聞かない。
ダイエットをするって、いったい何をするんだい?
「腹筋する。アニー、手伝って」
いきなり居間の床に寝そべるまどか。
たぶん、両足を押さえてほしいのだろう。僕は、まどかの足首を両手で押さえる。
真剣な顔のまどかは、鼻息を荒くしながら上体を起こしては寝かせ、それを繰り返す。
10回ほどを過ぎたあたりから、体を起こすのが苦しくなってきたようだ。
「ふんむぐぅぅ~~~~っ! ぅうぅう~~~~」
まどか、あんまり無理しない方がいいぞ。
そうだ、ダイエットに良いツボがあったと思う。調べてあげよう。
「え、ツボ? そうなんだ。よろしくー☆」
ネットで調べたらすぐに出てきた。もちろん、足の裏のツボである。
両足の土踏まずの少し上のあたりにあるらしいツボを刺激すると、体脂肪の燃焼が促進されるらしい。
僕は居間のソファにまどかを俯せに寝かせ、両足を揃えさせる。
まどかの綺麗な足の裏が、僕の目の前に揃えられている。
「ツボを押すだけで痩せられるなんて、簡単なんだね~」
甘いことを言うまどか。
そんなに簡単に人間が痩せられると思うか?
僕はまどかの足の裏に親指を当て、思いっきり力を込めた。
「ぎゃあっ!!!??」
まどかが反り返った、面白い。
「ちょっと! 痛いってば!」
ツボは、痛いくらいに押さなければ意味がない。って誰かが言ってた。気がする。
暴れるまどかのお尻に乗っかり、親指で足の裏を押し込んでいく。
「ぎゃおお~~~~!!」
まどかの足の指が開いたり閉じたりして可愛い。そして楽しい。
ダイエットのためなんだから、我慢しなさい。
「きゅううぅ~~~~!!!」
5分ほど、まどかに激痛足ツボ地獄を味わわせた。
ヘロヘロになったまどかは、ノロノロと起き上がり、フラフラとキッチンへ向かう。
何をするんだろうと思って見ていると、冷蔵庫から牛乳を取り出すとコップに注ぎ、腰に片手を当てて一気に飲み干す。
「プハーーーーッ!!」
続けて冷蔵庫の中に魚肉ソーセージを見つけると、それも取り出してムシャムシャと食べ始める。
な、何やってるんだ、おまえ・・・。
「えへ、足の裏のツボ押されたら、お腹空いちゃった♪」
いや、食べちゃったら意味ないじゃん。
「あ・・・・う、うわわぁ~ん! 悔しいよぅ!」
はあ・・・僕はため息まじりにスマホを取り出すと、里帆にメッセージを送った。
つづく
2017/10/28 体裁を整えました。




