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第三十二話 由香ちゃんと足裏とうなぎ


 友人もさほど多くない僕にとって、夏休みはわりとヒマだ。

 今日はどうやって過ごそうかな、そうだ、電気街へ行ってみよう。

 駅に隣接するように大きな家電量販店もある。そこをブラブラするだけでも、いい時間潰しになるだろう。

 まだ午前中なので、お昼もどっかで食べようかな。まどかは朝から遊びに行ってるみたいだし。

 僕は軽い足取りで、家を出た。


 電車で電気街へやってきた。

 電車を降りた瞬間から、ネットリとした熱気が僕を包み込む。

 うへぇ、暑すぎる! 足早あしばやに改札を出ると、一直線に家電屋へと向かった。


 ドコバシカメラに入ると、涼しげな空調のおかげで汗がみるみる引いていく。

 さて、どのフロアから見ようかなぁ・・・と、フロア案内の看板の前で悩んでいると、一人の女の子が歩いていくのが視界に入った。

 背格好からして、由香ちゃんに似ていたぞ・・・・その女の子は、エスカレーターに乗って、上の階へ移動していった。

 Tシャツにショートパンツ、それにビーチサンダルだったと思う。由香ちゃん確定の格好じゃないか。

 面白そうなので、僕はその女の子を尾行してみることにした。


 女の子はやはり由香ちゃんだった。マッサージ器具のコーナーにいた。

 ふむ、由香ちゃんは、マッサージに興味があるのかな。

 物陰から眺めていると、由香ちゃんはフットマッサージャーのコーナーへ行って、並んだイスの一つに座った。

 そのままビーチサンダルを脱ぐと、置いてあるフットマッサージャーに足を突っ込む。

 由香ちゃんが選んだフットマッサージャーは、足を入れてスイッチを入れるとエアーパックが膨らんで足を固定し、足裏に接した面から指圧棒が出て足裏を押してくれるものだ(大抵のフットマッサージャーはそういうものだろうけど)。

 由香ちゃんは上体をかがめて、スイッチを入れて何度かボタン操作をすると、イスの背もたれに寄りかかってフーッとため息をついた。

 なかなか渋めな趣味ですね・・・由香ちゃんの足なら、僕がいくらでも揉んであげるのに。

 やがて足裏マッサージが始まった由香ちゃんは、恍惚こうこつな表情を浮かべる。

 ずいぶんと気持ち良さそうだな・・・。

 しばらく見ていると、由香ちゃんの顔が赤くなってきた。

 なぜだろうか、下唇を噛みしめてもいる。何か悲しいことでも思い出したのだろうか。

 いや、そういうのとも違うような・・・。

 由香ちゃんは足裏をマッサージされながら、体をモジモジさせ始めた。

 悲しみの表情とも違うし、屈辱の表情とも違う。あえて言うなら、羞恥の表情という感じか。

 いったい由香ちゃんに何が起きているのか。

 僕はスマホで由香ちゃんにメッセージを送った。


 ―由香ちゃん、いまヒマ?―


 メッセージが届いた由香ちゃんは着信音にビックリして、ポシェットからスマホを取り出そうとしてアワアワして床に落としてしまった。可愛い^^

 スマホを拾ってから返信するために、指をチコチコ動かす。


 ―ヒマだけど、外にいるよ!―


 いつも通りの元気な由香ちゃんの返事だ。

 僕はコッソリと由香ちゃんのすぐ後ろまで行き、声を掛けた。


「お兄ちゃんだよ~」

「うきゃぁっ!?」


 飛び上がらんばかりに驚いた由香ちゃんは、僕を見てマッサージャーから足を抜こうとするが、エアパックがガッチリと足を固定してしまってどうにもならない。

 すると両手で口を押え、ワナワナと震え出したではないか。


「ううぅっ・・・・うっ・・・お兄ちゃん・・・」


 消え入りそうな声で、何か言っている。


「み、見ちゃダメぇ・・・」


 ついには両手で顔を覆って突っ伏してしまった。

 な、何を見ちゃいけないというんだ?

 いつも通りの健康的な裸足の由香ちゃんが、フットマッサージを受けているだけじゃないか。


「ふえぇ・・・足の裏揉まれてるの、見ちゃダメ~・・・っ」


 え?

 揉まれてるところを見られるのが、恥ずかしいの?

 僕は由香ちゃんを落ち着かせ、マッサージャーのスイッチを切って、由香ちゃんを立たせた。

 今の由香ちゃんは、ビーチサンダルを履いて立っている。

 この状態はどう? 恥ずかしい?


「ううん、恥ずかしくない」


 じゃあ、ビーチサンダルを脱いで、裸足になって。


「はい、脱いだよ」


 家電量販店の床の上に裸足で立つ由香ちゃん。はたから見れば、ちょっと普通じゃないように見えるかもしれない。

 この状態は?


「恥ずかしくないよ、全然」


 じゃあ、足の裏を揉んであげるよ。


「!! ヤッ、ヤダッ!////////」


 急にしゃがみ込んでしまった。揉まれるのがそんなに恥ずかしいのか・・・。

 それなのに、なぜお店でマッサージャーに揉まれてたの?


「あ・足の裏・・・揉まれるの・・・好きだから・・・////」


 またもや消え入りそうな声。

 好きなのに、恥ずかしいの!?


「え・・・お・おかしいかな・・・?」


 ふむ、おかしくはないな。うん、おかしくはない。由香ちゃんのそういうちょっと変なところ、好きだよ。

 ってことは、足裏を揉まれるのが好きだから、恥ずかしいのを我慢してここに揉まれに来てたってこと?


「う・うん・・・////」


 いつになく奥ゆかしく見える由香ちゃん。

 ううむ、こういうのも新鮮だぞ。

 由香ちゃん、君の足の裏なら、僕が揉んであげるよ!

 恥ずかしがらずに、いつでもうちに来るといい。遠慮しないで。


「ほんと・・・? じゃあ、今度・・・行く・・・!」


 もしかして、またまどかが焼きもちを焼くかな?と思ったが、そしたらまどかの足裏も揉んでやればいいだけのこと。

 元気になった由香ちゃんを連れて、レストランフロアに向かった。


「由香ちゃん、何が食べたい?」

「うなぎ! うなぎ!!」


 元気な由香ちゃんとは裏腹に、僕のお財布はグッタリしそうである・・・。



つづく



2017/10/28 体裁を整えました。

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