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第二十九話 キリスト姫は十字架に掛けられてしまった


 僕の部屋にそびえ立つ十字架。木材で作られたそれは、土台もガッチリとしている。

 作ったのは僕だ。材料費は多少かさんだが、頑張った甲斐あって良いものができたと思う。

 そして今、まどかがこの十字架に磔になってみようと言ってくれたのである。


「ちょ、ちょっとだけだからね!」


 ちょっとと言わずに、好きなだけ磔にされていいんだよ。

 では、さっそくまどかを十字架に掛けようと思う。まずはコスチュームを決めないとね。

 女囚着にょしゅうぎでもあれば最高に盛り上がるのだが、そんなマニアックなアイテムは僕もまどかも持ち合わせていない。

 うーむ・・・悩んだときは、体操着だな。


「まどか、体操着を着て来なさい」

「え、どうして体操着なの?」


 それは、簡単に“可愛い”を演出できるからさ。

 「ふーん」と言いながら、まどかは着替えるために自室へ戻っていった。


 しばらくして戻ってきたまどかは、ちゃんと体操着を着てくれていた。

 もちろん裸足である。よく出来た妹で嬉しい。

 時代劇などの処刑場のシーンで出てくる十字磔の場合、足置き台があって受刑者をその上に立たせるパターンがあるが、今回まどかが架けられるのはあくまでキリストの磔のシーンの再現である。足置き台なんぞは存在しない。可能な限り、リアルな磔を再現しようとする兄の思いやり。まどかに伝わるだろうか。

 ところで、キリストは磔にされる際、その四肢を釘で十字架に打ち付けられたという。

 もちろん、可愛いまどかに釘を打つなんてことは出来ないので、ほかの方法でまどかを磔にすることとする。縄とかがあれば、被虐感が出て素敵なのだが、そんな縄も無いし・・・そこで僕が選んだのは、布テープである。これで体を十字架に固定すれば、まどかの体重くらいは支えられるだろう。

 リアルさとお手軽さのバランスを見事に調和させた僕のアイデア、素晴らしすぎてため息が出そうだ。

 では、まどかを十字架に磔にしよう。


 十字架の前に踏み台(お風呂のプラスチック製のイス)を置く。もちろん、このイスはあとで取り除く。

 その上にまどかを立たせ、横木に沿って両手を広げてもらう。

 ちゃんと足のかかとは合わせるんだぞ。


「はい・・・」


 布テープをビーッと引っ張り伸ばす。

 まどかの手首から巻いていく。布と糊の匂いが結構強烈だ。

 両方の手首に巻き終えたところで、まどかに手を動かせるか訊く。


「うん・・・手首は動かないよ////」


 よし、続いて二の腕にも巻いていこう。

 まどかの体重を支える箇所を多くしておかないと、支えきれなくなって布テープが切れたりでもしたら危険だ。


「体がガムテープくさくなりそう・・・」


 なあに、そんな匂いはお風呂ですぐに洗い流せるさ。たぶんね。

 さ、次は胴体を支えるように巻いていくぞ。

 まどかの脇の下、胸の上にグルグルと布テープを巻く。

 まどかの胸は、中一の割には大きい方だと思う。兄が布テープでグルグル縛っても、変に思ったりしてないかな・・・。


「まどか、きつくないか」

「んん・・・・大丈夫・・・////」


 顔を見ると、なんだか少し赤くなっているようだ。

 なんだよ・・・お兄ちゃんまでドキドキしてきちゃったぞ・・・。

 腰のくびれ、といってもそれほど細いわけではないが、そこにも巻いていく。

 よし、最後は脚だ!


「まずは、足首からだ」

「はい////」


 揃えられたまどかの足首に布テープを巻く。

 「はぁっ」とまどかの吐息が聞こえる。

 見ると、かすかに素足が震えている。怖いのかな?


「こ、怖くなんか・・・ないっ!////」


 強がりを言うところがまた可愛い妹である。

 しっかりと巻いたところで、次は膝の下に巻いていく。

 どうだ、動かせるか?


「ううん、ビクともしない・・・っ」


 よしよし、順調に固定できているな。

 最後は太ももに巻く。白くて柔らかい太もも・・・こう書くと、なんかやらしいな。

 実際、まどかの太ももからつま先にかけては、将来が楽しみすぎる要素が眠っている。


「んっふぅ・・・ちょっときついぃ・・・っ////」


 おっと、ごめんよ、ちょっと興奮して手に力が入ってしまった。

 さて、これでまどかの体を十字架にしっかりと固定できたはずだ。

 では、いよいよ踏み台を外すぞ・・・・!

 まどかの足の下のお風呂のイスに手を掛ける。


 ・・・ゴクリ。


 僕もまどかも、固唾をのむ。

 まどかの体重がかかっているので、イスは簡単には動かない。

 緊張でまどかのつま先がキュッと閉じられる。

 よしっ、今だっ!

 お風呂のイスを力いっぱい引き抜いた。


「はぅあ・・・っ!!」


 まどかの体がわずかに下にずれ、そして止まった。

 目を閉じて、体を十字架に委ねている。

 僕お手製の十字架は、乾いた音をかすかに出しただけで、静かにまどかを支えている。

 聞こえるのは、まどかの息遣いと布テープがきしむ音だけだ。


 ・・・・完成だ! まどかの磔、完成だ!!


 僕はデジカメを構えると、まどかの磔にされた姿を隅から隅まで撮影する。

 踏み台を失った素足のつま先は、ピッタリと閉じ合わされたまま震えている。

 両手はギュッと握りしめて、自らに掛かる体重に耐えようと必死だ。

 ど、どんな気持ち? 今どんな気持ち!?


「ふえぇ・・・クラクラするよぅ・・・!////」


 は、恥ずかしさは感じる? 感じるの!?


「わ、分かんないよぅ!////」


 まどかの全身がフレームに収まるように、僕は下がる。

 体操着の女子中学生が裸足のまま磔にされている、その貴重な構図に手が震えてしまう。

 これは良い動画が作れそうだ・・・!

 僕は床に這いつくばって、足の裏も撮ろうとカメラをまどかの足の下に滑り込ませる。


「ああん、そんなとこも撮影するのっ!?」


 恥ずかしがって足を重ねてしまうまどか。

 それじゃ片方の足の裏しか撮影できないじゃないか!

 僕は凧糸を取り出し適当な長さで切ると、それを使ってまどかの両足の親指を合わせて縛る。


「やぁんっ! なんでそんなこと・・・っ」


 うるさい!

 これで両方の足の裏を撮影してやるぞ。

 再び這いつくばる。カメラをまどかの足の下の持っていく。

 磔にされた女の子をこのアングルから捉えた映像など、どの世界を探してもそう簡単には見つかるまい。


 さんざん撮影して満足した僕は、まどかを十字架から解放してあげた。

 布テープを剥がしたあとをさすりながら、まどかは自室へと戻っていった。



つづく




2017/10/27 体裁を整えました。

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