第二十六話 朝の温泉は素晴らしい
ピピピピ・・・ピピピピ・・・
スマホの目覚ましが鳴っている。
手に取ってみると、時刻は5時、朝の5時だ。
なんでこんな早い時間に・・・?
・・・・・あ、そうだ! 朝風呂に入ろうと思って、こんな時間に目覚ましをセットしたんだった。
バスタオルを持って、小部屋からまどかたちの寝ている部屋の襖を開ける。
女子は全員、グッスリと眠っているようだった。
僕は起こさないように、そ~っと部屋の出口へと向かった・・・つもりだったが、一番出口側で寝ていた里帆の足に躓いてしまった。
「んにゃ・・・?」
起きてしまった里帆と、バッチリ目が合った。
しばしの沈黙が流れる。
里帆は、何を考えているのだろう。
僕は、ピクリとも動けなかった。
やがて里帆はハッと気付いたような表情をし、僕の足をガンガンと蹴ってきた。
痛い! 痛いじゃないか!
「なんでまどむがここにいるのよっ!(小声)」
いや、これからお風呂に行こうとしてるんだよ!
「へ、お風呂・・・?」
そう、朝風呂に入るんだよ。朝の温泉は格別だからな!
「ふむ」と言った里帆は、布団からノソノソと出てきた。
寝起きのせいで浴衣がちょっと崩れて、胸元がはだけている。はだけている!
部屋の電気が点いていなくて、暗いのが恨めしいぃっ。
「私も行く」
浴衣を楚々と直し、バスタオルを持った里帆。
二人で部屋を出て、大浴場へと向かった。
こうして二人で旅館の中を歩いていると、恋人か新婚夫婦みたいだね♪
大浴場へ向かい途中、「貸し切り家族風呂」を見つけた。
見ると、今の時間は誰も利用していないらしい。
しかも、予約などは不要で、誰でも利用できると書いてある。
「里帆! 家族風呂があるよ!」
「はい、大浴場はあっちですよ~」
華麗にかわされてしまった。
まあそうだよね。まだ早いよね、僕らに家族風呂は。
僕は男湯へ向かい、脱衣所でスッポンポンになると、洗い場へと進んだ。
すでに二人、先客がいた。この人たちも朝風呂が好きなんだろうな。気持ちいいもんね。
体の汗をかるく洗い流し、大きな湯船に身を沈める。
はああぁぁ~~~~~・・・・っ!!
生き返る。
さっきまでの僕は、ゾンビだ。
干からびた皮膚に、ミネラルたっぷりの温泉が染み込む。
今、ゾンビから生きた人間へと無事、復活。
なんだか孤独チックになってしまった。
そんなとき、浴場の引き戸がガラリと開いて、人が入ってきた。
朝風呂の良さを知ってる人がまた一人・・・と思ってみたら、なんか腰にくびれがある人だ。
「ん~~~~~~っ! 気持ちいい~~~~~~~っ!!」
入ってくるなり両手を広げて伸びをしているその人の声は、実に聞き覚えのある人・・・子の声だった。
その子は、湯船に浸かっている僕をめざとく見つけると、全裸のまま駆け寄ってきた。
「あれ~、お兄ちゃんがいる!」
由香ちゃん、ここは男湯だよ!汗
あと、少しは体を隠しなさい!
「あれ? そうなんだ。間違っちゃった♪」
トタトタと裸のまま、出て行ってしまった。
まどかの同級生の女の子の裸を見てしまった・・・・・。
早起きは三文の得とは、よく言ったものだね。
気を取り直して、僕は露天風呂へと向かった。
朝食もバイキング。
昨日の夕食と同じ大食堂である。
スクランブルエッグも食べ放題!
僕はトロトロのスクランブルエッグが大好きだ。あの優しい口当たりに、ほんのりとした塩加減。ケチャップはいらない派だ。
そしてウインナと白いご飯があれば、完璧な朝食である。
「朝はカリカリベーコンが好きなの」
「私は焼き鮭と納豆!」
「朝はカレー! カレーが食べたい!」
「バナナとヨーグルトが好きです」
こんなみんなのわがままを余すところなく叶えてくれる朝食バイキングは、本当にすごいと思う。
そして、朝からカレーを食べる人って、本当にいるんだ・・・・。
こうして、ぼくらの温泉旅行は楽しく幕を下ろした。
ビーチサンダルを失った由香ちゃんは、旅館から雪駄を頂いて、それを履いて帰ってきた。
駅で別れた僕らは、それぞれの家へと帰るのだった。
「あ~、楽しかった!」
帰宅するなりリュックを放り投げ、リビングのソファに倒れこむまどか。
どれ、お兄ちゃんが足の裏を揉んであげよう。
僕はまどかの足の裏に親指を当て、力を込めた。
「ん~、ありがとう~・・・続けて」
ずっとサンダルで歩いてきたまどかの素足。
さっき脱いだばかりなので、当然足を洗ってもいない。
正直、ちょっと汗っぽいし、臭いもする気がする足の裏である。
だがそこが「生」っぽくていい。
足の裏をギューッと押すと、足の指が開く。離すと元に戻る。その表情が楽しくて、必死になって押した。
いつしかまどかは、かすかな寝息を立てていた。
妹って、可愛いな。
さ、僕も荷物を片付けて少し仮眠でも取ろう。
つづく
2017/10/27 体裁を整えました。




