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第二十二話 足湯でキャッキャッ♪


 七月、だいぶ夏らしくなってきた陽気の土曜日。

 まどかが当ててきた商店街の福引きの特等「温泉旅行」に、僕らは出発した。

 ターミナル駅から出る特急列車に乗り込む。

 僕とまどか、里帆、菜帆ちゃん、由香ちゃんの五人である。

 座席をグルリと回すと四人が向かい合わせになれるのだが、あっという間に女子四人で埋まってしまい、僕一人だけ「蚊帳の外」みたいな座り位置になってしまった。

 まあどうせ、女子たちの会話についていけるはずもないから、いいんだけどね・・・。


 列車はスルスルと目的地へ向かって進み、景色も都会から次第に田園風景へと変わっていった。

 後ろの席のまどかたちは、何をそんなに話すことがあるのか、常に二人以上の声が聞こえる。

 突然、頭をツンツンされた。


「お兄ちゃん、プリッツあげる」

「お、おお、ありがと」


 まどかがプリッツの小袋を手渡してくれた。

 ・・・ん?

 今「お兄ちゃん」って言わなかったか?

 普段は照れて“アニー”としか呼んでくれないまどかが“お兄ちゃん”と呼んでくれるとは、まさに「旅ハイ」である。


「なあなあ、まどか」

「なに」

「いまさ、おまえ“お兄ちゃん”って言ったな」

「! な・・・っ!」


 ・・・・妹から妹パンチをくらった。痛い。

 やがて目的地の駅に、到着しようとしていた。


 駅舎を抜けると、広々とした駅前広場に出た。

 空には雲一つない。山近い駅なので空に近いのだろうか、空の色が深く感じる。


「空気が澄んでて気持ちいい~」

「晴れてよかったね~」


 今日泊まる旅館は、ここからさらにバスで一時間ほどの場所にある。

 どこからバスに乗るのかな、バス停を探そう。


「あっ! あれって足湯!?」


 広場の一角に東屋(あずまや)が見える。そこに足湯が設置されているのを里帆が見つけた。

 何の迷いもなく里帆たちは、足湯へと走って行ってしまった。

 やれやれ・・・バス停を見つけたら、僕も足湯へ向かうか。


 足湯から100メートルほど離れたところにバス停があった。

 バスの発車時刻まであと20分ちょい。

 よし、足湯で女子たちの素足を楽しませていただきましょう♪

 僕はスキップしながら足湯へ向かった。


 足湯では、まどかたちが座って素足を温泉に浸けていた。

 女子四人が全員裸足になっている。素晴らしい!

 僕はカメラを取り出し、彼女たちを撮影する。

 四人は撮影されていることなど気にもせず、ペチャクチャとおしゃべりしながら楽しんでいる。

 まどかたちの後ろには、荷物と脱いだサンダルなどが置かれている。

 そういえば、旅館に着いたら里帆が足の匂いを嗅がせてくれる約束をしていたが・・・ここで足湯に足を入れたら、匂いが無くなってしまわないか?

 それとも、今日の里帆が履いているスニーカーは、足湯程度では匂いが無くならないほど、強烈なのだろうか。

 今目の前には、里帆のスニーカーがある。脱いだソックスが上に乗せられている。

 今なら・・・里帆たちに気づかれずにスニーカーの匂いを嗅ぐことができる。

 僕は、里帆のスニーカーの前にしゃがみ込んだ。


「まどむ、バスの時間って・・・」

「えっ!?」


 突然里帆が振り向いたので、スニーカーを持とうとした手を慌てて引っ込める。


「・・・・・なにしてるの?」

「あっ、えっ、あ・・・靴下が落ちてたから、拾ってました・・・」

「・・・・そう、ありがと。で、バスの時間ってあとどのくらい?」


 僕は時計に視線を落とす。

 時刻は、バスの出発時刻の直前を指していた。

 バスの停留所の方を見ると、バスが停まっている。

 始発の停留所なので数分前からバスは停まっていたのだろうが、女子たちの素足を撮影するのに夢中でバスの存在に気付かなかった!


「今すぐあのバスまで走れーーーーっ!!!」

「え!? ええ!?」


 あのバスを逃したら、次のバスは一時間後まで無いのだ。

 僕らは荷物を抱え、バスまで走った。


 なんとか僕らはバスに乗ることができた。

 あまりに僕らが慌てて乗り込んできたので、バスの運転手さんは笑っていた。

 席に着こうとすると、由香ちゃんが泣きそうな顔で抱き付いてきた。


「うわああぁ~~~ん!」


 ど、どうしたのだ、いったい。


「サンダル、脱げちゃった・・・・(T-T)」


 見ると、由香ちゃんはなにも履いていない裸足だった。

 今日の由香ちゃんは、旅行だというのにビーチサンダルを履いてきたツワモノだ。

 先ほどの足湯から走ってきたドタバタの中で、ビーチサンダルが脱げてしまったらしい。

 残念なことに、バスはもう出発してしまっている。

 しょうがない、宿に着いてから履くものを手配するしかないな。


「ええ~、それまであたし、裸足のままなの~?;;」


 恥ずかしそうに足を重ねている由香ちゃんは、可哀想で可愛い。

 せっかくなので、そんな由香ちゃんを撮影しておこう。

 バスはズンズンと山奥へと入って行く。


 山道はクネクネと曲がり、僕らは右に左にと揺れた。

 内臓が存分に撹拌される感覚に、乗客の誰もが酔ったに違いない(僕らしか乗ってないけど)。

 まどかたちも、ほとんどしゃべらなくなってしまった。


 やがてバスは、旅館近くのバス停に到着した。

 僕らはバスを降りる。とたんに、激しい蝉の大合唱が僕らを包み込む。

 時刻は正午になっていた。

 裸足の由香ちゃんが履けるものを買えないかと辺りを見回したが、建物がない。

 旅館に続く道を案内する看板があるだけである。


「旅館までそのまま歩くしかなさそうだな」

「ううう・・・頑張る・・・」


 看板を見ると、旅館まではここから徒歩十五分だ。


「じゅ・十五分も歩くの!?」


 絶望感丸出しの由香ちゃんを元気づけながら、僕らは旅館への道を進んだ。

 幸い、舗装はされている道だったが、小石を踏んづける度に由香ちゃんはわめく。可愛そうだが、蝉のうるささも合わさってやかましい。

 それにしても商店街の旅行のくせに、やけに辺鄙へんぴな場所にある旅館だな・・・。

 だが、そんな感想を裏切るかのように、目の前に現れた旅館は大きなものだった。


「うわー・・・立派な旅館・・・!」

「こんな山奥に、こんな大きな建物があるなんて・・・」

「もう足の裏が痛いよぅ・・・」


 僕らは、その豪華な旅館へ入って行った。



つづく



2017/10/27 体裁を整えました。

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