第二十一話 でかした妹
六月の最後の日曜日の昼下がり、僕はリビングのソファでくつろいでいた。
すでに初夏に突入しているが、まだクーラーは点けないでおこう。ジワジワと上がる気温を楽しむのだ。
両親は仕事で家にいないし、まどかもどこかに遊びに(?)行ってるみたいで、実に静かだ。
このままソファで寝てしまいそうだ・・・そう思っている時だった。
ガチャリと玄関のドアが開けられ、ドタドタとやかましい足音が近付いてくる。
「アニー!!! 当たった!!! 当たったよっ!!!!!!」
まどかがリビングに飛び込んできた。
まずは今日のまどかの服装を見てみよう。
上は袖のない白いフリフリっとした可愛いやつ、下は同じく白いふわっとした膝丈のスカート、そして裸足。うんむ、今日も可愛くまとまっていて嬉しい。
で、何が当たったって?
まどかは、白い封筒を突き出してきた。
「これっ、なーんだ!」
ふむ、封筒だな。中に何か入っているのか?
「今ね、商店街で福引やってるの! それで、当てたんだよ!」
ほおほお、ガラガラポンで当てたと・・・何等を?
「特等だよ♪」
なにっ、特等とな!?
「温泉旅行券でーすっ!」
マジかっ! 温泉旅行って、マジかっっ!?
それはつまり、僕とまどかが温泉旅行に行けてしまうというのか!
「二人じゃないよ、五人まで行けるんだって!」
ご・五人!?
なんか多くないか。
ふつうは「ペア旅行券」とかじゃないのか。
「なんかね、元々は商店街のメンバーで行く予定で手配した旅行だったんだって」
ところがメンバーの内五人が出席できなくなって、その分を福引の景品に回したらしい。
そんな裏話まで話してくれたのか、福引所の人は。
しかしよく特等を当てたな、でかしたぞ、妹よ!
しかし五人か・・・両親を入れても四人。あと一人・・・・。
「パパたちは無理でしょ。だってこれ来週の土日だもん、旅行」
何!? そんなに急な話なのか!
まどかから封筒を引ったくり、中を確認する。
利用できるのは、来週の土日、週末限定の旅行券だった。
じゃあ、僕とまどかは行くとして、あと三人は誰を選べば・・・。
「里帆お姉ちゃん誘おうよ!」
ほお、里帆か。ふむ、悪くはないな。
「里帆お姉ちゃんなら、保護者として適任だと思うの」
ふむふむ、なるほどね、っておーい!
この兄じゃ保護者として物足りないか! 不満か!
「そ、そうは言ってないよ。アニーと里帆お姉ちゃんの二人なら安心だなって思ったの」
そうか、ならしょうがない、保護者として全力で保護してあげよう。
さて、ではあと二人、誰にしよう。
あそうだ、菜帆ちゃんと由香ちゃんでいいんでは?
「え・・・菜帆ちゃんはいいけど・・・由香ちゃんも?」
なんだ、由香ちゃんのこと嫌いなのか。
「き・嫌いってわけじゃないけど・・・」
なんだかゴニョゴニョと言っているが、まどかと僕の共通の知り合いといえば、そんなに多いわけではない。由香ちゃんを選ぶのは妥当だと思うが。
渋々了承したまどかは、菜帆ちゃんと由香ちゃんに連絡を取る。
僕も、里帆に連絡をしよう。
そして温泉旅行出発の日。
誘った三人とも、即オーケーだった。
朝八時に駅前に集合。僕とまどかは早めに到着して、三人が来るのを待った。
一泊二日の温泉旅行。行先は日本でも有数の温泉地の旅館だ。
ここからだと、特急を利用して二時間、さらにバスで一時間ほど山へ入ったところにあるそうだ。
可愛い女の子たちと温泉・・・露天風呂でキャッキャウフフ♪
「アニー・・・顔やらしいよ」
え? あ、ごめん。
本来の表情に戻した。
さて、里帆たちはどんな格好で来てくれるかな。
「おはようございま~す♪」
最初に到着したのは、おりこうさん系少女の菜帆ちゃんだった。
白いワンピースを着ている。可愛い。とても可愛い。
そして白いサンダルの素足が眩しい。嬉しい。実に嬉しい。
「お待たせしちゃいましたか?」
いえいえ、全然待ってないよ。まだ二人、来てないし。
ニコニコとした菜帆ちゃんの笑顔に癒される。
こんな可愛い子の足の裏にお灸を据えて責めたなんて、貴重な体験をしたものだ。
「おはよう~、お待たせ!」
次に里帆が到着した。
水色のタンクトップにライトグレーのアンサンブルを合わせている。
下は僕が好きなホットパンツで嬉しいのだが、肝心の足元がスニーカーである・・・。靴下も履いているようだ。
僕の消沈さに気づいた里帆が、ささやく。
「裸足じゃなくてガッカリした?」
いたずらっぽい目で僕に視線を突き刺してくる。
ええ、ええ、ガッカリですよ。
僕が裸足が好きなことを知っているくせに、わざとスニーカーを履いてくる里帆。
何か考えでもあるのだろうか?
「まどむって、匂いとか好き?」
何? 匂い? 何の匂い?
「このスニーカー、長時間履いてると匂うんだよねぇ」
なっ! 足の匂いのことか!
そ・そこまで僕は変態ではないが、どんな匂いなのかくらいは気になる。
「じゃあ、旅館に着いたら嗅がせてあげようか」
ななななっ、なんだとぉっ!?
あなたの、その足の、スニーカーを履き続けた足の匂いを、嗅がせてくれると言うのかっ!
ちょっと発想が斜め上過ぎやしないだろうか。
さすがに里帆の頭の中が心配になってくる。
しかし、女の子に恥をかかせるわけにはいかないので、旅館に着いたら遠慮なく里帆の足の匂いを嗅がせていただこう。
「おっまたせぇ~~~~!!」
元気少女・由香ちゃんがやや遅刻してやってきた。
上は真っ赤なTシャツに白いキャミソールを重ね、下は白と水色のストライプのキュロット、そしてビーチサンダルなのである!
いやいやいや! 旅行にビーサンって! とっても可愛いけど!
「え~、ビーサンっておかしい? でもあたし、他に靴持ってきてないし~」
うーん、破天荒だが可愛いので良しとしよう。
里帆は菜帆ちゃんや由香ちゃんと自己紹介をしている。
「えー、里帆さんてロシナンテでバイトしてるんだぁ」
「私、ロシナンテのケーキ大好きです~」
「あたしもロシナンテのケーキ好き! バイトしたいな~」
「うちは高校生は雇ってないから、大学生になったら来てね♪」
すぐに打ち解けて仲良くなっているようだ。
さ、出発をしよう!
僕らの温泉旅行が、始まった。
つづく
2017/10/27 体裁を整えました。




