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第二話 指摘事項


 とにもかくにも、まどかが実行した動画を通して見てみよう。

 それから指摘事項を一つ一つ、説明することとする。


「ア、アニーに見られるの恥ずかしいぃ・・・」

「いまさら何を言っている? Booチューバーだってバレたことの方が恥ずかしいだろ」

「ぎゃーーーっ! 死ねっ!!」


 可愛い妹とイチャイチャする幸せを噛みしめつつ、動画の再生を開始した。


  ◆◇◆◇◆


 いきなり画面に、マスクで口元を隠した黒髪の少女の顔。これが、我が妹のまどかである。

 前髪は眉の高さで綺麗に切り揃えられている。髪の長さは肩よりちょっと長い感じのロングヘアー。中学に上がったばかりなので、当然茶髪にするようなこともない。

 若干の吊り目タイプで、輪郭の濃い目をしている。我が妹ながら、美少女であると思う。

 マスクで顔の半分近くを隠してしまうなんてもったいない気もするが、身元が割れた時のリスクを考えるとマスクはしておいた方がいい。

 顔のアップから身を引き、バストアップになる。

 両手をパーにして手を振る仕草で画面に呼びかける。


『はい、マドっ子まどりんで~す!』


 この「マドっ子まどりん」というのが、まどかのチューバー名である。

 ここをツッコむと、兄妹の縁を切られかねないので、とりあえずスルーしておこう。

 まあ、隣ですでに顔を真っ赤にしているが。


『今日はリクエストを頂いたので、それを実行したいと思いまーす』


 まどかの服装をチェックしてみよう。

 なんと、ジャージを着ている。

 この段階ではまだバストアップアングルなので、上しか確認できないが・・・ジャージはつまらん。

 普段のまどかは、家の中ではジャージなんて着ない。たぶん、撮影自体にまだ抵抗があるので、ジャージを着ているのだろう。

 だが、これではリクエストした者もがっかりであろう。


 続いてA4のコピー用紙にマジックで書いたリクエスト内容を見せるまどか。

 その用紙には 「裸足で15分正座したら、足の裏はどうなるか?」 と書かれていた。


『はい、こんなリクエストを頂きました! えーと、裸足で正座を15分、するそうです!』


 おそらく、いや確実にまどかは、このリクエストをした人物の真の目的を理解していない。でなければ、この動画が再生数の伸びない残念な動画になるはずがない。

 ではなぜまどかは、このリクエストを実行しようとしたのか。

 それは明白だ。このリクエストが、正座するだけの簡単なものだと思ったからである。

 15分間正座して足の裏の状態を確認するだけで、リクエストに応えたことになると思ったまどかは、所詮中学生である。

 だが、ここはBooTube、ネットの世界。

 大人も子供もおねーさんも、一緒の世界なのである。

 甘く見てはいけない。


 続いてまどかは、カメラを自分から少し離れた床に置いた。全身が映ったが、見ると下もジャージである。可愛い自分を見せようという気概が感じられない。要指導である。


『じゃあ、まず正座する前の足の裏を見まーす』


 胡坐をかいたまま右足を前に出し、足の裏を自分で見た後、カメラに突き出すようにして足の裏を映す。


『今の状態は、こんな感じで~す』


 そのまますぐに正座のポーズになるまどか。

 うう~ん・・・足の裏を映すこと自体は悪くないんだが・・・。

 いかんせん、ジャージで胡坐のまま足の裏を見せられても、色気がなさすぎる。この感覚は、女子には分からないかも知れないな・・・。

 そもそもカメラマン不在の「自撮り」では、こうなるしかないか。

 ここは僕が、カメラマンとして腕にヨリをかけるところだな。


 キッチンタイマーを15分間にセットして、まどかの正座が始まった。

 傍らには、水の入ったペットボトルと、漫画が一冊置いてある。15分という時間は、意外と長く退屈である。その退屈さを凌ぐため、まどかは水と漫画を持ってきたようだ。

 だがその15分は、動画を見ている者にとっても退屈な時間となるものだった。まどかが正座しているだけなのである。

 カメラを床に置いたままの自撮りではそうならざるを得ないのはしょうがないが、15分間正座しながら漫画を読み、たまに水を飲むまどかを正面からのアングルから見るだけの15分間。いくらまどかが可愛くても、退屈極まりなさすぎて、思わずトイレタイムにしたくなる。


 そしてキッチンタイマーがピピピと鳴り、15分がようやく終わった。


『じゃ、15分経ったので足の裏を見てみましょー』


 最初と同じように、足の裏を自分で見ようとして体勢を崩すまどか。

 正座していた時間が長かったため、足が痺れてしまったようである。


『うう~~~ぅ、痺れてるぅ~~~!』


 ふむ、この痺れてるまどかは、なかなかいい。

 しかし足の裏を確認したまどかは、ヒョイとカメラに足の裏を向けただけで、素っ気ない一言を発する。


『とくに変化はないみたいでーす!』


 そして、まどかがカメラを手に取り、顔のアップで(マスクで隠れてはいるが)ニッコリして動画終了。


  ◆◇◆◇◆


「ど・どう・・・?」


 恐る恐るたずねてくるまどか。

 どこが悪いのかはっきり分からなくても、動画としての完成度が低いことだけは感じているようだ。

 中学生のまどかにはちょっと難しいかもしれないが、「フェチ」というものがこの世に存在することを知らしめるか・・・。


「まどか、リクエストしてきた人は、何に期待していたか分かるか?」

「え、だから・・・正座した後の足の裏の状態を知りたい・・・んでしょ?」


 ため息を一つついて、首を振る。


「違うんだな。正座した後の状態とかは問題じゃないんだ」


 まどかは首をかしげている。


「どういうこと?」

「つまり、変に思うかも知れないがな・・・お前の足の裏をずーっと見ていたいんだよ」

「はっ!? 何言ってる・・の?」


 予想通りの反応である。

 女の子の足の裏を見たがる人間が存在するなんてこと、まどかには理解できないだろう。

 だが、そういう人間は実在する。

 "足の裏フェチ"という特殊な性癖の持ち主が、今回のリクエストをしてきたのだ。


「あ・あたしの足の裏をずーっと見て嬉しいの?」

「そうなんだろうな。そういう観点から今回の動画を見てみると、どこが悪いか分かるだろ?」


 まず大前提としての「足の裏をずーっと見たい」というリクエスト者の真の目的をまどかに伝えた。

 では次に、フェーズごとの指摘事項を見て行こう。


「最初の自己紹介のシーンだが・・・なぜジャージを着ているのだ」

「え・・・動きやすいし・・・」

「ジャージは可愛くない。見た人が『この子かわいー!』って思わなきゃ、再生数だって伸びないぞ」

「ええー、じゃあ何着たらいいの・・・」


 まどかの学校の制服はブレザーだ。

 その格好に裸足というのもなかなか萌えるが、学校が特定されては危険だな。

 残念だが、学校が関連する衣装はNGか・・・。


「制服以外ならなんでもいいが・・・あ、正座するんだから、下はショートパンツな」

「ショートパンツ? あ、半ズボンのこと?」

「おま・・・、おっさんみたいな言い方するのな・・・まあ、そうだ、半ズボンだ」

「どうして正座だと半ズボンなわけ?」

「正座とは、太ももを強調する座り方なんだ。それをむざむざ見えなくしてしまうのは、もったいないからさ」

「よく分かんないけど、半ズボンにしてみる・・・」


 続いてリクエスト内容の紹介。

 まあ、これはそのまま元の動画と同じ演出でいいだろう。

 ただし、このときまでまどかには靴下を履いていてもらう。その意味は、次のシーンの効果を上げるためである。


 その次のシーンとは・・・そう、正座する前の足の裏の状態を確認するシーンだ。

 ここで初めて、まどかに靴下を脱いでもらう。今この瞬間、この少女は靴下を脱いで裸足になった、という点をアピールするのである。

 元の動画では、まどかが自分で足の裏を見ていたが、ぶっちゃけそのシーンはいらないと思う。

 そもそも胡坐の状態から片足の裏を見るポーズは、美しさにも可愛さにも欠ける。

 ここでは動画を見ているみんなにまどかの足の裏をじっくりと見てもらおう。


 そして、本動画のメインコンテンツとなる正座のシーン。

 このシーンについては、まどかは両手は膝の上に置き、正座しているだけでいい。

 大変なのはカメラマンである僕だ。まどかの正座姿を様々な角度から撮影しなければならないのだから。僕が後ろに回り込みやすいように、壁から離れた位置で正座してもらわないとな。


 15分後のシーン。

 足が痺れた状態をうまく撮れたら、いい動画になると思う。

 ここは遠慮なくまどかに悶えてもらう。


「も、悶えるって、どうやるの?」

「よし、正座が終わった時、お兄ちゃんが手助けしてやる。楽しみにしてろ」

「あ、あんまり変なことしないでよー」


 そして足の裏の状態確認だ。

 正座前と同じように、動画を見ている人がまどかの足の裏をじっくりと見られるポーズをさせよう。

 そして、まどかに靴下を履いてもらう。この子は普段は靴下を履いているんだ、ということを視聴者にアピールする。

 いつも裸足の子が足の裏を見せるより、普段は靴下の子が恥ずかしそうに裸足になるのを見る方が、興奮するだろう?


 よし、だいたいの方向性は決まった。

 では、妹よ、着替えてきていいぞ!


「え、今から撮るの?」


 お兄ちゃんは、今が一番冴えているんだ!

 このテンションを下げたくない。

 そう伝えると、まどかはブツブツ言いながら自室へと着替えに戻っていった。



つづく



2017/09/25 体裁を整えました。

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