第十二話 優しい妹
まどかと菜帆ちゃんの、足裏お灸対決の動画を編集した。
画面を左右に二分割し、左にまどか、右に菜帆ちゃんの動画を配置する。同時にお灸に点火してスタートするように、タイミングを合わせる。
二人の女の子が、足の裏にお灸を据えられるのを同時に見ることが出来る動画だ。なかなか見られることはないだろう。
しかも、対決後には敗者である菜帆ちゃんの罰ゲームシーンまで追加してある。
この手の動画に目がない御仁は、必ず食いついてくるだろう。
まどかと菜帆ちゃんの、耐える姿は当然違う。見た目ももちろん違う。
見る人にとって、どっちが好みということもあるだろう。
この動画を機に、二人のファンが増えてくれると、いいなと思う。
動画をアップしてから二日後には、再生数が5千を超えた!
確かな手ごたえを感じる。
<コメントの数々>
・二人とも熱そうなのに、よく耐えた!
・足の裏を鞭でしばきたい
・お灸ってそんなに熱いの??
・罰ゲームの凄まじさに引いた、もっとやれ
・彼女たちにはもっと頑張ってほしい
・こういう動画が作成される時代に生きてて、よかったよ~
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いささか行き過ぎた内容のコメントも見受けられるが、概ね好評であるようだ。
少女のどちらかを否定するような書き込みもない。
女の子の足の裏にお灸を据えるという行為そのものに対する意見は、いくつかあった。が、そのどれもが「俺にもやらせろ」という系統のものだった。
ふふ、羨ましがられるのは、悪い気分ではないな。
さて、次のネタはどんな内容にしよっかな、と。
翌日、僕は大学に来て講義を受け、昼休みに友人と学食へ来ていた。
うちの学食は、安くて量も多くてなかなかうまい。
今日の昼はカツカレー(サラダ付)にした。
友人の秋津章雄は、生姜焼き定食を食べている。
天気も良く、食堂の中は明るく美味しそうな匂いでいっぱいだ。
カツカレーもうまい。
みんな幸せそうに、ランチを楽しんでいる。
「なあ、まどむ・・・マドっ子まどりんって知ってる? Boo子なんだけど」
いきなり秋津がまどかのチューバー名を言ってきたので、カレーを噴いた。
な、なんで秋津がまどりんのことを・・・?
「なんかさあ、すっげー可愛くて頑張ってるんだよね~、まどりん」
「へ・へえ~・・・」
「裸足でさ、外歩いちゃったり、足の裏にお灸されたりしてんの!」
「ほ・ほおお~・・・」
よく見てくれているな・・・こんな身近に、まどかのファンがいたとは。
「俺さぁ、裸足の女の子って大好きなんだよねぇ」
ほお、同類だったか。
秋津とは大学に入ってから知り合った仲なのだが、裸足の女の子好きだとは知らなかった。しかし、ばっちりと釣れたな・・・。
「俺ってちょっとSっ気もあるからさ、女の子が苦痛に悶えてるの見ると、興奮しちゃうのさ~」
これほどチョロいやつだったとは、秋津が。
「まどりん、いつか石抱き責めに挑戦しないかな~」
石抱き責め・・・ふむ。
石抱き責めとは、正座した膝の上に石の板を何枚も乗せるというおそろしい拷問である。
十露盤板というギザギザの板の上に正座させるパターンもある。
そんなことをやらせたいとは・・・変態かっ。
「ところで、まどむとまどりんって、名前似てるよな」
ギクーーーーーッ!
「まどむ」と「まどか」。
そう、僕ら兄妹は、似た名前を付けられたのである。
「しっ、知らないよ! まどりんなんて・・・っ」
「だよな、偶然だよなw」
ふう、あっさり誤魔化せてよかった。
しかし、まさか友人がまどかのファンだったとは驚きだ。直にファンのコメントを聞けるのは、なかなか嬉しい。これからもちょいちょい、意見を聞いて参考にしよう。
そして帰宅。
「あ、お・お兄ちゃん、おかえりなさーい!」
まどかはすでに学校から帰宅していた。
ん? 今「お兄ちゃん」と言ったぞ?
恥ずかしがって「アニー」と呼ぶまどかが「お兄ちゃん」と言ってくれるなんて、めずらしいな。
「おやつ、ホットケーキ作ったんだけど、食べる?」
おお、それはありがたい。いただきましょう。
テーブルにつくと、まどかがホットケーキとコーヒーを出してくれた。
「どうぞ、召し上がれ!」
なんか・・・やけに優しいな。怪しい。
ちょっと、まどかを問い詰めてみよう。
すると、まどかは僕の正面の椅子に座り両手を膝の上に置き、俯いて震えながら話しだした。
「あの・・・怒らないで聞いてほしいんだけど・・・」
上目遣いのこちらをチラチラと見てくる。
ふむ、これは何かをしでかしたようだな。
基本的に僕は、温厚な性格であると自負している。妹に対して本気で怒ったことは、今までの人生でも3回もないと思う。
「お、お兄ちゃんのモンハンのデータ・・・間違って消しちゃった・・・」
モンハンとは、ご存知『モンスターハンター』というゲームのこと。
そのデータを消しただと?
「あのね、今学校でモンハンが流行っててね、それで、お兄ちゃんも持ってたの思い出したから、ちょっと借りたんだ・・・」
ああ、そう、借りたのね。
僕は3DS版のモンハンを持っていて、けっこうはまっていた。
それで?
「データをセーブしようとして・・・その・・・」
両手を握り合わせて、モジモジと身体全体で捩じれている。
見ていて面白い動きだが、まどかは涙目になっている。
「お兄ちゃんのセーブデータに、あたしのデータを・・・う、上書き・・・しちゃった・・・」
ふむふむ、僕のデータを消してしまったのか。
たしか、500時間くらい遊んできたはずである。
「まどか、お兄ちゃんがそのモンハン、何時間遊んできたか、知ってるか?」
「え・・・じ、十時間くらい?」
「500時間だよ」
「ご・・・っ!」
まどかは固まってしまった。
兄が育ててきた500時間ものセーブデータを消してしまったのだから、固まるのも無理はない。
だが、僕はそんなことでは怒ったりはしない。
そもそもモンハンはクリアしてしまったし、次のゲームを始めたのでもうやるつもりもないのだ。
だから、まどかが僕のセーブデータを消してしまったとしても、さほどショックでもない。
しかし、それでは面白くないし、なによりもまどかが申し訳なく思っている。これを利用しない手はない。
ぐふふ・・・・僕の中で、悪魔が目覚めてしまったようだ。
「まどか・・・」
「はっ、はいっ!(汗)」
「僕の500時間分のデータは、もう・・・戻ってはこない」
「はい・・・(しゅん)」
「データを消してしまったことは、意図的ではないとしても“罪”には違いない、そうだな?」
「は、はいぃ・・・(泣)」
「罪を犯してしまったら、償わなければならないのは、知っているよな」
「うぅ・・はいぃ・・・(T-T)」
「これからまどかには、お仕置きとして“石抱き責めの刑”を受けてもらう!」
「え・・・えええーーーーっ!!」
思わず石から立ち上がるまどか。
立ち上がったまま、また固まってしまった。
さあ、僕も勢いで「石抱き責めの刑」なんて言ってしまったが、実際どうやって処すればいいのやら・・・?
つづく
2017/10/16 体裁を整えました。