表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/40

第十一話 まどかの罰ゲーム


 深夜の僕の部屋に、まどかが来た。

 一時間ほど前にお風呂から上がったまどかは、半袖短裾のパジャマを着ている。

 しばらくモジモジしていたかと思うと、突然「私にも、罰ゲームしてっ!」と言いだした。いったいこの妹は何を言っているのかというと・・・。


 今日の昼間、まどかとその幼馴染で親友である菜帆ちゃんの二人の足の裏にお灸を据えて、どっちが長い時間耐えられるかという勝負をやった。その結果まどかが勝ったので、負けた菜帆ちゃんには罰ゲームとして足の指を縛って足裏にお灸を据えた。

 詳しくは、前話を読んでいただければバッチリだ。

 てっきり勝負に勝ったことで、まどかは満足していると思っていたのだが・・・。


「お前は菜帆ちゃんに勝ったじゃないか」

「うん・・・その後の罰ゲームを見て・・・ね、あたしなら耐えられるって・・・思ったの」


 ふむ。

 たしかに罰ゲームのときの菜帆ちゃんは、可哀想なくらいに泣き叫んでいたな。

 まどかはそんな体験をしたいというのか?


「あ、あたしは泣き叫んだりしないからっ! 耐えてみせるから!」


 ほうほう、自分の限界に挑戦したい、といったところですか。

 そこまで言うのなら、お灸を据えてあげよう。

 僕はせんねん灸を出すと、土台をカッターで切り始めた。


「罰ゲームはしてほしいケド・・・カメラで撮影するのはやめてほしいの」

「え、なんで? BooTubeにアップしないの?」

「ちょっ! それはダメ! そういうのじゃないの!」


 今回は撮影して動画を作るのが目的ではなく、あくまでお灸の熱さに耐えてみせるという、自分との戦いをしたいらしい。

 わかった、BooTubeにはアップしない。

 だが、まどかが熱さに悶えるところは、カメラにおさめたい。だから、こっそりと撮影することにした。


「そうだ、BooTubeにアップしないのなら、制服でもいいんじゃないか?」

「は? なにそれ。アニー、あたしに制服着てほしいの?」


 うん、そうです。

 制服を着て、裸足で足の裏にお灸を据えられてください。

 真剣にお願いしたら、渋々承諾してくれた。

 まどかは制服に着替えるため、自分の部屋に戻っていった。


 やがて着替えたまどかが戻ってきた。

 制服を着て、裸足。

 この、ちょっとだけ不自然な組み合わせ、いつ見ても素晴らしい。

 ではまどかよ、罰ゲームを始めるとしよう。


 まどかが膝をつく。

 膝の裏にクッションを挟み、座らせる。

 菜帆ちゃんと同じように、足の親指同士を縛ろう。しかし、縛るための結束バンドの在庫を切らしてしまっていた。しょうがない、ここは凧糸で縛るとするか。凧糸でまどかの足の親指同士をグルグルと縛る。


「ちょ・・・あんまりきつくしないで・・・」


 ゆるすぎて足が動いても危ないからね、ある程度しっかりと縛ろう。

 ついでに、両手の親指同士も縛ってみようかな。


「まどか、両手を後ろに回しなさい」

「ふえ? こ・こう?」


 そうそう、そのまま、凧糸で親指同士をグルグル・・・と。


「ええっ!? 手も縛るの!?」

「お灸の数をね、増やそうと思って」

「う、動けない・・・っ(汗)」


 菜帆ちゃんの罰ゲームでは、片足3個ずつ、合計6個のお灸を足の裏に据えた。

 同じことをしてもつまらないし、まどかも満足しないだろう。


「まどかには、5個ずつ据えようと思うんだけど、いけるよな?」

「ご・・・っ、5個!?」

「菜帆ちゃんとの勝負に勝ったまどかなら、5個くらい、軽いだろう?」


 言いながらまどかの足裏にせんねん灸を置いていく。

 かかとに2個、横並びで。

 土踏まずにも、横並びで2個。

 中指の付け根に1個。

 おそらく、土踏まずのお灸が一番熱く感じるはずだ。

 それが2個も・・・恐ろしい。


 制服を着て裸足のまどかは、縛られたまま正座して、その足裏にはお灸を置かれている。まだ火は点いていない。すべてのお灸に点火すれば、耐え難い熱さがまどかの足の裏を襲うだろう。


「ねえ、今どんな気持ち?」

「え・・・怖いのと・・・恥ずかしいのがごっちゃになってる・・・」

「恥ずかしいんだ!? 縛られてるから恥ずかしいの!?」

「ちょ・・・どうしたの、アニー?」


 気が付くと僕の鼻息は荒くなっていて、まどかが怪訝な表情をしている。

 いかんいかん、落ち着かなければ、まどかを脅えさせてしまう。

 こっそりと持ったカメラで、まどかの姿を写す。


「ま、まだ点けないの・・・?」


 おっと、撮影に夢中になっていた。

 カメラを持っていることがバレないうちに、火を点けてしまおう。

 チャッカマンで火を点けた。


「ごほっ、ごほっ!」


 お灸10個ともなると、かなりの煙が出るな(汗)

 まだ熱くなっていないのに、まどかは目をギュッと閉じている。口も真一文字に結んでいる。

 制服のスカートを短く履いているので、白い膝が丸く露出している。膝から脛のラインが裸足に続き、その足裏でもぐさがモウモウと煙を上げている。

 やがて、艾が燃えるその熱さでまどかの足の裏を責め始める。

 まどかの表情がクシャリと崩れた。熱さを感じたのだろう。

 これからさらに熱くなることを知っているまどかは、肩がプルプルと震え始めた。


「ううぅ・・・っ、熱い・・・っ!」


 5ヶ所、両足合わせれば10ヶ所ものお灸が、まどかの足の裏を焼き焦がす。

 実際はギリギリ火傷をしない程度の熱さだが、それでも熱いものは熱い。

 昼間の撮影で感じた熱さよりも、辛いはずだ。


「ふぐううぅぅぅぅ~~~~っ!!!」


 さらに熱くなったようだ。

 後ろ手に親指同士を縛られた両手を握ったり開いたりしている。足の指もギュッと握ったり開いたりしている(面白い)。

 あんまり激しく動かすと、お灸が落ちちゃうから気を付けろよ。


「ううううぅぅぅーーーーっっっ!!!」


 ものすごい形相になっている。

 試しに、まどかの口元にタオルを近づけてみよう。


「ふっ!? あぐっ!!」


 見事、タオルに噛み付くまどか。

 そのまま噛み千切ってしまうのかと思うほど、思いっきり噛んでいる。まるでウツボみたいだ。


「うううぅ~~~っ!!!」


 とうとう床に頭をガンガンと叩きつけ始めた。

 制服を着て、両手両足の親指を縛られて、裸足の裏にお灸を据えられて、床に頭をガンガンと叩きつけた女の子は、たぶんまどかが日本初なのではないだろうか。

 日本初っていうか、世界初かもしれない。

 まどかはカメラに全然気づいていないようなので、この面白い姿も余さず撮影する。


 突然、まどかが静かになった。

 どうした? お漏らしでもしちゃったのかな。

 掃除はまどかにやらせよう、と思ったが、違ったようである。

 お灸が熱くなくなった、つまり、燃え尽きたようだ。

 床に叩きつけていた頭をゆっくりと上げるまどか。


「うぅ・・・熱かった・・・・」

「お、泣いてるぞ」

「なっ、泣いてないもん!」


 強がってはいるが、涙のあとは隠せない。

 僕はまどかの足の裏からお灸を取り、両手と両足を縛っている凧糸を解いてあげた。


「ふうー」


 まどかが真っ先にしたことは、足の裏を手の平でさすることだった。

 まどかのしなやかな手が、ほんのりと赤い足の裏を優しく包み込む。いいな・・・柔らかそうな足の裏。お兄ちゃんも擦ってあげよう。


「ちょっと! くすぐったいからやめて!」


 拒否られてしまった・・・(しょんぼり)。

 立ち上がったまどかは、その場で数回足踏みをする。


「熱すぎて、足の裏が痛い・・・」


 まあ、軽い火傷くらいにはなってるかもな。

 ところで、これで欲求は満たされたか?


「うん・・・寝る、おやすみ」


 まどかはフラフラと自室へ戻っていった。



 翌朝――。


「アニー! 朝ごはーーん!!」


 朝ごはんの用意をしてくれたまどかが、僕を呼ぶ。

 僕は一階のダイニングへと降りていった。


「おはよう」

「お・おはよ・・・」


 食卓には、まどかお手製のスクランブルエッグ(たぶんオムレツの失敗したやつ)と、トーストが置いてあった。サラダ的なものは、ない。


「野菜は野菜ジュースでね」


 冷蔵庫から野菜ジュースのパックを出して、目の前に置かれた。まあ、これでもいい、十分である。

 うちは仕事の関係で、両親が家にいない。

 二人とも何ヶ月も家をあけることがざらなので、僕とまどかはほぼ二人暮し状態なのである。

 朝食はまどかが作ってくれる。必ずしもバランスの良い朝食とはいえないが、中学生にしては頑張ってくれている。

 ちなみに、夕飯は僕が用意することが多い。


「ところで、足の裏はどうだ?」

「・・・・」


 返事がない。

 まどかは無言で朝食を食べ始めている。

 聞こえなかったのかな。


「しかし昨日のまどかはすごかったな~、タオルすっごい噛んじゃってさ」


 突然、まどかがギロリと睨んできた。

 見たこともないような鋭い目線である。


「・・・・忘れて」

「ん? なんて?」


 フォークを置いて姿勢を正したまどかは、俯いて息を吸った。


「昨日の夜のことは、忘れてっ!////」


 耳がキーンとなった。

 顔を上げたまどかを見ると、真っ赤になっている。

 ふむふむ、そうか。

 今朝になり、昨日のことを思い出して、恥ずかしくなったんだな。


「なんであんなお願いしちゃったんだろう・・・・////」


 頭を振って、昨夜の可哀想な自分を記憶から追い出そうとしているようだ。

 ま、僕のデジカメには一部始終がバッチリと残っているんだけどね☆

 「真夜中のラブレター」みたいなものだな。

 朝の思考と夜、とりわけ夜中の思考はその差が激しい。

 自ら罰ゲームをしてほしいなんて言った昨夜の自分を、今の自分が理解できずに苦悩している。

 しかし、まどかはまだ中学生、それも一年生だ。

 大いに悩むが良い。

 苦悩を抱えたまま、まどかは学校へ出発し、僕も大学へ出発した。



つづく



2017/10/16 体裁を整えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ