第十話 耐えるまどかと菜帆ちゃん
目の前には、揃えられたまどかの白い両足の裏。
左右の土踏まずには、せんねん灸が一つずつ置かれている。せんねん灸は土台を低く切り落としてあるので、点火したらかなり熱くなる。
まどかの足裏上のせんねん灸には、まだ点火していない。点火するためのチャッカマンは、僕が今持っているのだ。
「アニー・・・あんまり・・・熱くしないでぇ・・・」
目をウルウルさせて懇願してきた。
しかし、菜帆ちゃんも同じ試練を乗り越えてきたのだ。まどかにも同じように、お灸の熱さを経験していただかなくては(面白くない)。
さ、火を点けるぞ。
「ひいぃぃ・・・っ!」
両方のせんねん灸に点火し、ストップウォッチを開始する。
せんねん灸から白い煙が立ち昇り、あたりに艾の燃える香りが広がる。
「心地良い香りですね・・・♪」
「ふみゅぅ・・・っ」
まどかは目をグッと閉じて、これから来るであろう熱さに備えている。力み過ぎているのか、足の指までギュッと閉じているのがかわいい。
もちろん、固定カメラで足の裏もアップで撮影している。
僕はまどかの全身と表情を手持ちカメラにおさめるため、せわしなく動き回っている。
菜帆ちゃんは、そんな僕を楽しそうに見ていた。
そしてせんねん灸は、徐々にその熱でまどかの足の裏を苛み始める。
「ひぃ・・・熱くなってきた・・・っ」
「もっと熱くなりますよっ!」
菜帆ちゃんがまどかを怖がらせる。熱さに脅えるまどかを楽しんでいるようだ。
ストップウォッチを見ると、そろそろ45秒を過ぎようとしている。菜帆ちゃんが熱さを感じたタイムだ。
「ふぬぬぬぬぬ・・・・っ」
まどかが震え始めた。
見ていて面白い。
もはや「温かい」ではなく、「熱い」状態になっているはずだ。
「んん~~~っ! ウソ!? こんなに熱いのっ!?」
「そうなんですっ! そんなに熱いんです!!」
まどかは両手をブンブン振り回して、熱さに耐えている。
菜帆ちゃんはキャッキャと喜んでいる・・・割と鬼のような子かもしれないな、この子は。
やがてせんねん灸は、まどかの足裏を焼き鏝で焦がすような熱さと痛みで責め始めた。
「ふぎゅううううう~~~~っ!!!」
ものすごい形相のまどかである。足の指を開いたり閉じたりして、熱さから逃れようとしている。
もちろん、そんなことで逃れられるはずも無く、お灸はどんどん熱くなっていく。
いよいよまどかもギブアップか!?
そう思ったときだった。
「・・・・あれ?」
きゅうにまどかが冷静さを取り戻した。
見ると、せんねん灸から煙が昇っていない。なるほど、燃え尽きたんだな。
「あ、熱くなくなった・・・よ?」
「そ、そうなんですの?」
お灸が燃え尽きたんだ、頑張ったな妹よ。
「え・・・ってことは、私クリアしたってこと!?」
「すごーい! まどりんすごいですぅ~」
まどかの足の裏から、燃え尽きたせんねん灸を取り除いた。お灸があった箇所が、ほんのりと赤くなっている。
立ち上がったまどかはぴょんぴょんと跳ねて、喜んでいる。
「私の勝ちだよね~♪」
「く・・・悔しいですぅ~」
ふむ、お灸が燃え尽きるまで耐えたのだから、この勝負はまどかの勝利だな。
「わ、私は負けてしまったのですね・・・」
菜帆ちゃんはしょんぼりしている。
可哀想だが、負けた方には罰ゲームをするルールである。
しばしの休憩を挟んだ後、菜帆ちゃんの罰ゲームを撮影しよう。
普通に足の裏にお灸を据えたのでは、先ほど撮影した内容と変わらないので、つまらない。
ここはすこし趣向を凝らしてみよう、うん、そうしたほうがいい。
休憩時間が終わり、まどかと菜帆ちゃんが部屋に入ってきた。
「罰ゲームは、お灸3個ずつで行こうと思うんだ」
「え! 3個ですか!?」
「両足だから、全部で6個だね」
「え・えええ~~~!」
さすがの菜帆ちゃんも、変なポーズで驚いている。
ともかく、菜帆ちゃんを座らせよう。膝の裏には、クッションを挟んでお尻を浮かせる。
「お灸3個だと熱すぎて足を動かしちゃうかもしれないから、危なくないように親指を縛るよ」
「ほえ?」と菜帆ちゃんの頭上にはてなマークが出たのを無視して、結束バンドで菜帆ちゃんの足の親指同士を括ってしまった。はみ出たバンドは、ペンチで切り捨てる。
そして、かかと・土踏まず・中指の付け根の3箇所ずつにせんねん灸を置く。
今回は菜帆ちゃんにも最後まで耐えて欲しいので、台座を2ミリではなく3ミリにしてある。これで多少は熱さに耐えられるようになっているはずだ。
まどかは、お灸が並んだ菜帆ちゃんの足の裏を見て、口に手を当ててワナワナとしている。
「ああ・・・っ、足、動かせないですぅ~(汗)」
ふふふ、その焦っている感じ、素敵ですぞ。
チャッカマンを手に、菜帆ちゃんににじり寄る僕。
「アニー・・・鼻息すごいよ・・・」
そ、そうか。落ち着きます・・・。
菜帆ちゃんの足の裏のお灸のすべてに、点火した。
それはまさに、“地獄絵図”だった。
結果的には、菜帆ちゃんはお灸が燃え尽きるまでギブアップはしなかった。
しかし足裏を襲う熱さ、それも全部で6箇所の熱さ、親指も縛られて動かせず。最初のお灸とは、比べ物にならないほどの苦しさだったのだろう。
髪を振り乱して床を叩き、仰け反っては悲鳴のような雄叫びを上げるほどだった。
菜帆ちゃんの、見てはいけないところを見てしまったような気がした。
念のため、今の菜帆ちゃんの動画をBooTubeにアップしていいか訊いてみたら、
「もちろん、オーケーですわ♪」
という、信じられない答えが返ってきた。
まあ、顔はマスクで隠されているし、本人がいいって言うなら問題ないか。
撮影が終わり、編集を僕に託した菜帆ちゃんは帰って行った。
今日はまどかや菜帆ちゃんのあられもない姿を撮影してしまった・・・。
そして夜の僕の部屋。
今日撮影した素材を編集するか、とパソコンに向かっていると。
コンコン
まどかが部屋に入ってきた。
どうした、妹よ。
「あの・・・あのね」
うんうん。
まどかはモジモジしている。
目がウルウルしているようにも見える。
「私にも・・・罰ゲーム・・・」
ほえ?
「私にも、罰ゲームしてっ!!」
な、なんですとー。
つづく
2017/10/06 体裁を整えました。