召喚、その1
~~~~~~~とある異世界の王国~~~~~~~~~
サルマンド大陸の中心に位置するパイシイーズの国は今、魔王率いる魔物の軍勢に攻めこまれ、滅亡の危機にありました。
困った王様たちは古より伝わる勇者召喚魔法を使い、この危機を乗り越えることにしました。
勇者の都合など関係ありません。
何せ自分たちが全滅するかしないかの、まさに瀬戸際なんですから。
魔王を倒したら勇者には適当にご褒美をあげて還せばいいんだし、何も問題ありません。
この際、世界によって通貨が違う事実も無視しましょう。
何せ国が滅んだら全てが終わりなんですから。
国中から集められた神官や魔法使いたちが不眠不休で祈ります。
国が滅んだら彼らも死んでしまいますからね。
いけないお薬で眠りを禁じられた彼らはみんな死人みたいな顔色です。
がんばって!
おや、魔方陣が光りはじめました。
どうやら勇者がやってきたようです。
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ああ、忙しい。
全くもって忙しい。
こんなに忙しいのならいっそ全てを投げ出して。
魔物に殺されてしまえばどんなに楽か。
私ことメルビン・ヂャビン・ハヂャビンゲは。
王国の財務省出納管理部の部長補佐役でございます。
普段はラード茶でも飲みながら。
ゆっくり金貨銀貨を数えていれば良かったものを。
魔王がせめてきたばっかりに。
こうして働くはめになっているのでございます。
私が何をしているかと申しますと。
勇者さまにお渡しする、褒美の金貨の袋をば。
お城の地下の宝物倉からですね。
こうして地上の大ホールに、運び上げておるわけです。
何せ勇者も人間でございますから。
褒美の金貨の袋の山で、有無を言わさず気を引いて。
魔王退治の大任を「うん」と言わせにゃなりません。
だからこうして役人が、総出で袋をリレーして。
お城のホールに山づくり。
全くもって困ったもんです。
勇者のやつには困ったもんです。
聞いた話じゃ召喚を。
しくじった70年前の魔法使いたちは。
みんななかよく縛り首とか。
この偉い私がここまでやっているのですから。
縛り首だけなんて生ぬるい。
縛って吊るして焼き上げて干して叩いて粉にして。
ラード茶に入れて飲み干してやります。
えいほえいほ。
おやおや何か城のまわりが真っ白く、光りはじめたじゃあありませんか。
もしやこれが勇者召喚魔法でしょうか。
ああ、助かった。
がんばったかいがありました。
プスン!
おや?いまのプスンはなんでしょう?
光も消えてしまいました。
みんなもすっかり手を止めて。
いったい、何が起きたのかと辺りを見回しております。
おい、そこの若いの!
二階に行って見てきなさい!
全く言われなければ動かないとは気が利かない。
しかしこれはいまのうち。
ポケットのサラミソーセージを食べてしまいましょう。
ガブリ。モグモグ。
うむ。やはりサラミは特大サイズに限る。
おや、さっきのやつが帰ってきました。
いったい何があったやら。
何!勇者の召喚は失敗!
この私がここまでしたのに!
何と!
うぐっ!
し、心臓が……刺されたように痛い。
ぐふっ。
い、息ができない。
ああ、驚きと怒りのあまり、私の心臓は。
止まってしまったようです。
ああ、せめて最後にこのサラミを。
できればたっぷりのラード茶を。
…………。
……。
息抜き息抜き