裏側 残されし世界の真実
これは、世界に最後の人類である彼の棺の中に遺された、彼と共に遺された唯一の埋葬品。
誰でもいい。何でもいい。ここに書かれた内容を汲み取ってくれることを期待し、拙い記録であるが私はこれを遺す。
今よりも遥か先の世界。科学による繁栄を極めた人類。あらゆる問題は解決し、神の奇蹟や、魔法や夢などといった幻想も全て再現できるようになっていた。だが人々は物足りなかった。
何でも叶う世界。それは人の欲を歪ませた。
人の欲。それは、位階。
他より優位に立つこと。他より優遇されること。他より評価されること。他から見上げられること。他を見下ろすこと。
何不自由ない世界では一見、あらゆる場合において人と人との差はなく、あらゆる意味で横並び。
だが、人と人は同一ではない。自身と他者は同一ではない。内面が異なっているのだから。だが、完成したこの世界では、内面を露出させる機会は存在しない。そんな、心が抑圧された世界。
私もそんな世界の住民の一人。ただ、最後の一人。何の間違いかそうなってしまった。私を含む人々全員がそれを望んだのだ。科学という人造の神に。
「差がない世界。そんなもの私たちは望まない。だがもはや私たちは、差がある世界では到底生きてはいけない。だからいっそのこと、最後の一人を決めて欲しい。無秩序に、無作為に、無差別に。」
自らの創造種の意志を受け取った科学の神が取った手段。それは、死の灰だった。人々の歴史に残された、最悪の虐殺手段。何も残さない虐殺の手段がそれだったからだ。
善悪の区別なく、人々の意図を汲み取り実行するだけの科学の神の鉄槌が振り下ろされ、世界は死の灰に覆われた。人の営みを感じられるところ、人工物あるあらゆる場所にそれは降り注ぎ続けた。
あらゆる生物は死に絶えた。微生物やウイルスなどの、目に見えないものも含めて。残ったのは、人の手により捻じ曲げられた人工物と、無生物な自然のみ。
そして、私は選ばれ、生き残った。人類最後の一人として私はこの世界で起こった出来事を、唯一残った大地で、四季が同時に訪れる矛盾の島で書き残す。
死の灰は今も止むことなく降り注いでいるだろう。私の居る人工物であるこの古城以外には、今も。
誰か、いや、何かに読んでもらうための文章を書くなど生涯起こりえないと思っていた。きっと、私を含む全人類がそう思っていたに違いない。
数多の資料を読み込み、参考にし、記述を残してみたが何卒これが初めてである。それに、これの出来を今判断してくれる人は、居ない。私は最後の人類なのだから。
生活には一切不自由していない。以前は抑圧されていた好奇心を好き勝手に自由に解放する権利が私にはあるのだから。人類再生の研究をこの地で続けながら、叶うか朽ちるその瞬間までずっと、記述を続けていきたいと思う。
私は好きに生きた。終わりはもう届くところまで来ている。少し前のことだ。誰かに記述することを継いでもらいたいと強く思うようになった。私の後を継いで続きを紡いでほしい、と。多少様式が変わろうと構わないから、誰かに。
だが、誰に託せばいい? 私が最後の人類なのだ。そう思っていた私はその悩みに対する答えをようやく見つけた。願いは叶わなかったが望みは繋げられたのかもしれない。間に合ってよかったと、私は――
そこで記述は途切れている。




