エピローグ 秘められし最後の記録 誰も知らない彼女の記憶
それは解読できないように加工され、封印された映像と文章。未来永劫決して覗かれることのない、彼女が黙した自身の最後の記憶。
私は戻ってきた。ここを出たときとは違い、体は重く、視界はぼやけて色褪せて、白と黒のコントラストのみでかろうじて形成されている。
この四角い広場。古城の中庭。ここを出る前は色で満ちていたというのに。
中央のサークル部分以外を占める虹色のコントラストの花々。それが彼女にはもはや黒色の濃淡にしか見えなかった。
最後の最後で、私はしくじったのだ。最初出るときに拘りを優先せずに、ここを記録するべきだったのだ。だが、嘆いても仕方はない。涙などは出ない。そんなもの私には存在しないのだから。
横線が時折走り、乱れる視界。徐々に砂嵐が濃くなり、体のあらゆる感覚が曖昧になっていく。かろうじて動く足を私は前へ進める。最後の仕事の締め。報告がまだ残っているのだから。
私はサークルの中央部へ向かう。そこに置いてある無装飾で無機質な細長い箱を目指して。あと数歩の距離でとうとう足が動かなくなった私はかくんと姿勢を崩し、転んだ。
まだ手は動く。それを確認した私は、鈍くも両の手で地面を蹴り、前へと這う。
視界に入れていたはずの箱が強まった砂嵐に遮られて、見えない。手探りになりながら私は前へ這い、その手で箱に触れようとし、触れた。
残った力の全てを振り絞り、体を箱の上に乗り上げさせる。そして、私の体は指先一本動かせなくなった。だが、まだ動くのだ。重い口も、靄が掛かってる頭も。
私は力なくも口を開き、報告を始めた。
「主様。申し出の通り、最後の仕事をやり遂げました。そして申し出を破って戻ってきてしまいました。私はあなたの意図を汲めたのでしょうか。それは正しいのでしょうか。私も主様の後を追うこととなりました。ですから答えは私がそちらに辿り付ければ聞かせてくださ……」
目から光は消えて、口を半開きにしたまま、最後まで言い切ることもできない。私はもう動かない。動けない。
これは私だけの記録。
だから、これは秘する。
黙する。
蓋をする。
どこか安らかなその表情のまま、私は自身の時を止めた。




