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唯佇むものたち  作者: 鯣 肴
本編

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第三章 秋の樹林 寒色熟枯絨毯

 島の西へと向かう彼女。徐々に日差しは弱くなり、潮風は感じられなくなる。そして、気温も下がり始める。


 西へと続く道を進めば進むほど、淵に生える草の色から緑が徐々に抜けていき、わらのような色へと変わっていく。舗装された地面が徐々に湿り気を見せてきていた。


彼女の進行方向遥か遠くには、枯茶色の領域、成熟した木々から成る森林地帯が広がっている。


彼女の左から風が吹いた。だが、その風には最早匂いはない。篭っていた熱もすっかり消えていた。






 地面を踏みしめる音が変わる。彼女は踏み入れたのだ。枯色の大地へと。それはまるで枯葉の絨毯が地面一面に敷かれているよう。


今にも朽ちそうであるのに、これから先、未来永劫朽ちることなく、この場に佇み続けることになるそれらの上を私は歩く。


 音を立てるそれら。だが、砕けることはない。多くの水分を含み、しなるそれら。拾い上げて触れてみる。


 匂いは一切しない。水分を含んだ革のような触り心地。彼女の足元へと含まれた水分が垂れ落ちる。この涼しげな外気よりも冷たい。


 どうもここに来た辺りから正確な気温が曖昧になってきている。


 彼女は無数の枯葉たちのうちの一枚を摑み、掲げて透かす。


『こんなもの、記録する必要があるのだろうか。空っぽだ、全て。ほぼ枯れた、色褪せた色。僅かに紛れる極一部の彩色。だが、どれも均一に、等しく、空っぽ。生命の息吹を感じられない。それらは永遠に無為に存在し続けようとしているからだろうか』


 それはこれまで彼女が感じる種類のなかった疑問。存在の意義。それに対する疑問。






 彼女は進む。樹林の外縁部からより内側へと。木々の中で最も彩色の多い枝が目に入る。飛翔しそれを手折った。


 あまりにあっけなく無為にそれは折れた。葉とは異なり樹木本体は完全には枯れているように感じられた。葉を生やしたまま朽ちた樹木。これはただの葉の止まり木でしかない。


 樹木の手折った部分を下から見上げる。一定速度で、逆再生するように損傷部が再生した。彼女が手に持つ枝と葉はそのまま。


 再生。それは、活き活きしさを強く象徴するもののはず。だが彼女にはそう思えなかった。死にながらも無為に佇むものにしか見えなかった。


 この樹林全体、秋の領域全てが無為なものに見えてしまった。無為にただ佇み続ける意志なき死物の群生。


 あまりに虚しい。せめて、誰かがそれを見届けるだけでそれらは意味を見出すだろうに。


『これが、主が私に最後の仕事を任せた理由。私が見て留めて記録すれば、死物たちは意味を吹き込むことができるのだ。佇む意味あるものにしてやれるのだ』


『記録は残る。私がたとえ朽ちた後にも。それを見た誰かが、それらにまた佇む意味を与えるかもしれない。たとえ消滅していたとしても佇んだことに意味があったといえるかもしれない。望みを繋ぐための仕事だったのだ、これは』


 何やら納得した彼女。無表情という仮面にひびが入ったかのように彼女は微笑んだような気がする。しかし、次の瞬間にはまた元通りにこれまで通りの無表情を浮かべていた。


 樹林帯を抜け、彼女は北へと向かう。そこはかつて彼女が唯一主に城から連れ出されて立ち入った、彼女の初めての疑問を置いてきた場所。


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