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唯佇むものたち  作者: 鯣 肴
本編

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1/10

プロローグ 最後の仕事

 それは遥か未来の地点において翻訳された遠い過去の映像。場面が変わるごとに数行の文字の列が添えられている。






 整備された自然が広がる世界。


 その世界の中の、白い雲がまばらに散った青空と緑の広大な芝生が一面に広がる場所。暖かくもなく冷たくもない気温の、眩しくはないが明るい日差しが降り注ぐ場所。


 どこまでも伸びていく暖色の煉瓦で舗装された道を、音を生み出して歩いていく誰か。


 それは漆黒に染まったロングのメイド服を着た少女。それはまるで喪服のようにも見えた。


 黄金比に沿った、しかしまだ完成しきっていない幼さを僅かに残す顔立ちをしている。その顔は口元と目元しか動かず、ほぼ無表情に近い。


 突如、そよぐように風が吹く。彼女の左から右へと。すらりとした長身と長い手足を持つ彼女だからこそ、この光景は映える。


 肩に掛かる程度の長さの、無垢な真っ白で真っ直ぐな髪が揺らめく。彼女は自然と右手で頭を抑えた。彼女は儚げな表情を浮かべた。長年つけ慣れた黒の造花のヘッドドレスは主のところに置いてきたのだということを彼女は強く実感した。


 彼女は頭から手を離して後ろを振り向いた。進んできた道の始点をエメラルド色の瞳で眺める。遠く延びていくこれまで進んできた道の始点、色鮮やかな春の花々の群生地である山の頂上にある古城を。


 緑の蔦と幾種かの鮮やかな色の植物の花が絡みつき重なり合い、城壁の表面をモザイク状に覆っているのが小さいながらも彼女には見えていた。


 彼女は先ほどまでそこに居たのだ。最後の仕事を託されてそこを出た彼女は、春の記録を終え、夏の記録へと向かう最中だった。


『ここは、四季が同時に揃う島。だが、創造主であり維持者であり唯一の観測者である主に先立たれることになる島。それでもなお、彼らはこの島でただ佇み続けるだろう。彼ら自身が決めた終わりが訪れるまで。その姿を見て()に留める者が誰もいないというのはあまりにも偲びない。だから彼らを、君が見て回るんだ。もはや、君にしかそれはできなくなるのだから。せめて、いつか人知れず終わるはずの彼らを今のうちに()して欲しい』


 主の最後の言葉を思い出した彼女は、振り返るのをやめ、前を向いた。そして左へと曲がり、島の南へと真っ直ぐ向かっていく。

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