9話 寿司じゃない!
家の近所まで送ってもらうと、張り込んでるアホ共を警戒。
「ストーカーもどきが張り込んでるからここでいいよ。」
「そう?逆に危なくない?」
いや。。気持ちは嬉しいが・・・
田中がどうこう出来るレベルじゃないし、戦力外だ。
それに、田中に被害が及ぶと申し訳ない。
「大丈夫。ありがとう。」
田中は俺が見えなくなるまで見送ってくれた。
家が見える所まで来ると、やはり・・・ストーカーは居た。
それに混じって、マスコミ風の奴等もいる。警官の姿もあった。
俺に気が付いた奴が声を上げる。
「あっちにシャールちゃんだ!!」
どこに隠れてたのか・・・ワラワラ集まってくる。
今なら間に合う!! ダッシュで警官の所まで走る。
ダッシュしても上半身が重くて遅い。。。
走る俺に容赦の無いシャッター音。
何とか警官の所まで走れた。
「あれ?いつ家から出たの??そんな事より、早く家に入りなさい。」
「ありがとうございます。」
警官がブロックしてくれてる間に、家へ入れた。
ふぅ~~~ 何日かで飽きてくれる事を願う。。
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさいませ。黙ってお出かけにならぬ様に。」
出迎えてくれたお袋が返事を返すが・・・
お袋の洋服を無断拝借してた事を忘れてた。。。
「良くお似合いです。差し上げましょう。バッグは返してください。」
怒って無い様だ。お礼を言ってバックを返した。
「もうすぐ、お夕飯ですよ。」
返事をすると、2Fへ上がった。取りあえずお袋の服は脱ぎ、
部屋着にトレーナに着替えて、ベッドに横になった。
何だかんだと、馴染んでる自分に不思議な気がする。。。
ただ、普通に生活できないのが不便だ。
しばらくすると、田中からSNSでメッセが着た。
”今着いた。大丈夫だった?”
”さっきは送ってくれてありがとう。
家の前だし、大丈夫も何もないだろう。”
”そうだね。 それはそうと、兄ちゃんが友達連れて来てて・・・
シャールちゃんに会いたいって。御馳走するから誘って見てって
聞かれたけど・・・嫌だよね?”
”そうだな。兄はウザイし、邪魔なだけだ”
”だよね。でも、何か友達の手前で引けないみたいで・・・”
面倒だな。兄の恋人でも無い俺が何故?と思うが・・・
”お願いできない?最初で最後でいいから。”
”そこまで言われると断れないな。用意して出る。さっきの公園で。”
”ありがとう。待ってる。”
はぁ~~~~~~~ 大きな、ため息しか出ない。
再びさっきのお袋の服に着替えた。
2Fから外の様子を伺う。
居間から外へ出て、塀をよじ登れば大丈夫そうだ。
生尻防止の為にストッキングも履いた。
下へ降りると、お袋に出かける旨を伝える。夕飯も不要と付け加えた。
玄関から靴を取ると、居間の方へと移動して庭へと出る。
流石に不法侵入になるから庭には居ない。
屈んで、塀を乗り越え隣の家の庭経由で脱出成功。
そして公園へと向かう。
公園に着くと、既に兄が2人の供を連れて待っていた。
・・・真人の姿は無い。
「お待たせしました。初めまして。」
兄の2人の供の挨拶をする。
「なっ?なっ?実物はめちゃ可愛いだろう??」
3人で、勝手に盛り上がっている。もう帰りたいぞ。。
しばらく、俺を無視する様に盛り上がり・・・要約落ち着いた。
「シャールちゃん何食べたい?」
何が食べたい?ん~何だろう?肉系は匂いが気になるし・・・
無難に寿司だな。回転する奴に一度でいいから行きたい。
「今の気分は寿司かな。」
「決定!!幸寿司にいこう!!」
「あっ。真人がまだだけど?」
「あいつは来ないよ?」
「んじゃ帰る。」
「ええっ!! そりゃ無いよ。」
「同じ台詞をお返し・し・ま・す。真人が居ないならつまらないし。」
「分かった!!すぐ呼ぶ!!」
慌てて、電話で真人を呼び出す。
真人が来るまでの間は、じろじろ身体中を品定めされててキモイ。。
趣味だの、何だの聞かれるが、適当に答えてると真人が到着した。
「真人!遅いぞ!!」
「・・・ハブってた人の言う台詞??呆れた。」
「寿司御馳走するから機嫌直して。ねっ??」
「あ~はいはい。」
充てつける様に、真人の腕にしがみ着いた。
照れる真人に、3人の殺意を感じる。
「んじゃ幸寿司行こう!」
「回る回るがいい。高い店で御馳走になる理由ないし。」
「いいから、いいから。」
結局5人で兄の車に乗って、幸寿司って寿司屋に来た。
クルクル寿司に一度でいいから行きたかったのだが。。。
幸寿司は・・・結構高そうだ。。親父によく連れられた寿司並みな気が。。
「カウンターでお任せでいいよね?」
・・・壁のメニューに・・・お任せ時価!と書いてある。
・・・・・・
「テーブルがいい。」
「んじゃテーブルで。あっ。真人!!お前はシャールちゃんの隣に座るな!
いつも独り占めできるからいいだろう!」
露骨過ぎる兄に苛立つ。
「んじゃ・・・帰る。」
「ええっ!!ここまで来て? 」
「兄も顔があるし、我慢して。」 田中が耳打ちする。
「分かった。もう好きにして。」
するとじゃんけんを始めて、俺の隣を決め出した。
結果、俺の両隣に兄の友が座り、田中と兄は向いに2人で座った。
お品書きを手に取るが、
「シャールちゃんは特上で、真人は並みで俺達は上ね。すみません!!」
・・・何だそれ。。
「私も並みがいい。」
「遠慮しないでいいよ。」
「真人も、特上なら同じにする。」
「分かったよ!!特上2つで上三つね!!」
田中兄の機嫌を損ねた様だ。だが関係ない。
男の若い店員がオーダーを取りに来た。
「ご注文は?」
そう言いながら、立派な湯吞のお茶を置く。
置き終わると、俺の見る。いや、乳を見てる。
「あ、あの・・・謎の美少女??」
「おうよ!謎の美少女シャールちゃんだ!!」
偉そうに声を張り上げる田中兄。
どうして、お前が偉そうなのだ?頼むから意味不明な事は止めてくれ。
向こうの方から、どやどやと客が押し寄せてくる。
「謎の美少女?どこ??」 ・・・てな声が四方から聞こえる。
アホ兄の軽率な行動を恨む。逃げないとやばそうだ。。だが、
「特上2つに上3つね。」
「へぃ!!お待ちを!! ・・・後で写真撮っていい?」
俺が返事をする前に、田中兄の友が断ってくれた。
だが、一般客が俺達を囲んで勝手に撮影を開始した。
もう何だっていいや。。
そこに、隣のテーブルの家族連れの客が目に入る。
5歳くらいの男の子と目が合った。するとこっちのテーブルに来た。
「お姉ちゃん美人だね。」
「そぉ?ありがとう^^」
頭を撫でてお礼を言った。親は見て見ぬ振りだ。
・・・子供を呼び戻さない。
子供は可愛いけど、親はアホだな。
するとアホ親の元に注文した寿司が届いた。
「お寿司来たから食べるぞ~」
「は~い。」
「美人のお姉ちゃんまたね。」
手を振って見送った。席に戻った子供。すると・・・
「パパ~、この緑のツーンとするの嫌い!」
声が聞こえる。親が突然大声で怒鳴りだした。
「サビ抜き頼んだのにサビ入ってるぞ!!!作り直せ!!」
だ・・・そうだ。。。
家族以外で寿司に行った事ない。回る寿司に一度でいいから行きたい。
そんなレベルの俺だから、よく分からないが・・・
寿司を食べに来たのではないのか? と、問いたい。
親父が議員をしてるのもあって、寿司屋と言えば一人¥10,000前後の寿司だ。
親父が酒を呑めば、3人で食べた会計は¥50,000-以上って時もある。
そんな行きつけの寿司屋は、サビ抜きは絶対に出さない。
幼少期の俺に、親父が言っていた。
「寿司は、絶妙な酢飯とワサビとネタ。この3つが揃って寿司なのだ。
どれか一つ欠けては寿司とは言えない。
それに、生の物を口にする訳だ。生には菌等が必ずいる。
大人はともかく、子供程サビで殺菌の補助を必要とする。」
と言われた物だ。事実、親父の行く寿司屋でサビ抜きを頼む客は
一人も居ない。それが当たり前だと思ってた訳だ。
それと・・・パパ~ 何て親を呼んでる子供のにも違和感がある。
俺が物心付いた時から、父上だったし。。。
俺と仲の良い、山根や重富や大和は、親をお父さんと呼ぶ。
何だか・・・怒ってる親に怒りが込み上げる。
勝手に写真撮影してる無神経な奴等の事の怒りの要素もある。
席を立つと、隣の席に歩み寄り、
「美人って言ってくれてありがとう。
えっとね。このツーンとするのが無かったら、お寿司じゃないんだよ?
ここに乗ってるのは、生のお魚さん。生には菌って恐ろしい
生き物が居て、君の身体に入って身体を食べるんだよ?」
「そうなの??寿司嫌い!!」
「子供が食べるものじゃないかもね。」
ニッコリ微笑んで頭を撫でて、自分の席に戻った。
周囲のギャラリーは、呆気に取られてる。
・・・何か・・・間違った事・・・したのか??
ああ。。。サビを抜いてる”寿司もどき”も提供してる店なのか。
お節介だったか。。
辺りを見渡すと、俺を見に来た見物客がワラワラ居る。
折角だ。この疑問をぶつけた。
「みなさん、サビ抜きは寿司ですか?」
顔を見合わせて、困惑してる様だ。
「サビが有って、寿司だと思う方は挙手してください。」
再び、何かを相談している。てか、他人同士だろう?他人に相談するか?
と思っていると、半分より多い人が手を上げた。
「では、手を上げた方で、お子さんの居ない方は手を降ろしてください。」
すると半分が手を降ろした。
「最後に、今、手を上げてらっしゃる方に問います。
お子さんに、自分を何て呼ばせてますか?」
「「「「「 お父さん。 」」」」」
全員一致のお父さんだった。
「パパとは呼ばせて無いのですか?」
「そうだね。俺も親からパパと呼ぶなと教育されたし。」
「俺もそうだ。パパと呼ぶと怒られた。」
だ、そうだ。親の教育の相違だと気付く。
結論から言うと、俺がこの寿司屋に来てはいけなかったと思った。
「ご協力ありがとうございました。好きなだけ写真撮ってください。」
社会勉強させて貰ったんだ。このくらいは当然だろう。
少しだけ可愛くポーズと取ってみた。
と、子供の方を見ると・・・父親は少しバツが悪そうだ。
俺の認識不足で、不快な思いをさせた事は確かだ。
他人の教育に口出しするつもりはない。ただ、関わらなければいい。
隣に行って、父親に、
「大変失礼して申し訳ありませんでした。」
と頭を下げて、人を掻き分けてカウンターまで来ると、
「ここは、サビ抜きをするお店ですか?」
「そうだね。客が望むなら応じるよ。」
「そうですか。私は寿司を食べに寿司屋へ来たのですが、寿司じゃないのも
出されてる様なので、私のオーダーはキャンセルしてください。」
深々と頭を下げると、元の席まで戻り、
「我儘でごめん。どうしても譲れない。」
田中と兄達に、深々頭を下げると店を出た。
はぁ~~~何だかなぁ。。。トボトボ家の方へ歩く。。
さてさて・・・
私は親にパパ、ママと呼ぶと凄く怒られました。
幼年時代から親に敬語を使う事を強要されました。
私の場合は極端で、少数派の教育だと思います。
そして・・・子供の頃はサビ抜きをしてくれる店に行った事ないです><
思えば、学生時代に仲の良かった友人は皆、パパと呼ぶ人はいませんでした。
親から受けた教育と、今の子育てを比較しましてどうでしょう?
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