8話 自慢していいぞ!
すっかり漫画に集中してたらしい。
田中の存在を忘れてた。
「あっ。ごみん。漫画読んでていい?」
無言で頷く田中。こんなシチュエーションは初めてだろうから、
戸惑いは分かるが・・・存在感ないぞ?田中!
まぁ、同じ空気を吸うだけで、慣れてくれる事を祈る。
訓練だな。これで慣れて自信を持ってくれるといいのだが。
しか~し、漫画が面白い。区切りのいい所までと思うのだが、
止まらない。座って読むのも疲れる。
「座ってると背中痛い。ベッドに乗ってもいい?」
田中の返事を待たずに、ベッドに乗りうつ伏せで長くなり
漫画を読み続けた。時々、チラチラと田中を見るが、硬直してる。
・・・じっと座ってるのも・・・疲れるだろうに。。
そう思いながら、漫画を読んでると再びノックの音がする。
「茶菓子持ってきたぞ。」
田中兄だ。何かに理由を付けてる様に思える。
お礼を言うか考えたが、ウザイから漫画の続きだ。
案の定・・・兄は出て行かない。てか、俺が寝そべってる
ベッドの下に座る始末。図々しいを通り越えて、呆れる。
「ね~何読んでるの?」
「宇宙人呼んでる。」
適当に答える。
「面白い?」
「浅黒い。」
「・・・・・・」
「えっと、漫画が読めない。邪魔だけど?」
黙り込む兄。だが出て行く気配はない。気にせずに読む。
漫画が面白くて、無意識に膝を曲げたり、伸ばたりベッドで泳いでる様に
バタバタとしていた。
そんな俺に2人の視線が集まる。
「あっ。すまん。埃が舞った?」
「あ。。。いや。。。」
2人共・・・もごもごしている。まぁ、ホコリが立つから止めろ!
とも言えないのだろう。だが・・・何か・・・チラチラ見てる。。
・・・足をバタバタしてて・・・ミニスカートがめくれてた。。
思いっきり、お袋が選んだピンクのパンツが丸見えだ。。
Tバックぽいパンツで布部分が少ないパンツ。
尻の露出が多く、パンツってか尻が丸見えだ。
今日は、ストッキングは履いていない。。。生尻披露。。
真人が慌てて、
「み、み、見えてるよ。」
慌ててスカートを下げて隠そうとしたが手を止めた。平静を装い、
「見せてんだ。好きなだけ見れ。あっ。真人だけね。」
「羨まし過ぎるぞ!」
兄が叫ぶ。兄の顔を見て、スカートを下げて隠した。
兄の残念そうな顔が笑える。顔はイケメンでも残念な男だ。
邪魔が入り、漫画を読む気も失せた。
ベッドから降りると、真人の横に座る。
「今日はもう帰る。」
「ええっ?もう帰るの?」
「邪魔が入るし、田中も無言で硬直しててきついだろう?」
「ううん。そんな事ない!」
「それに、暗くなるし。」
「それじゃ送るよ。」
「俺も送る!!」
「お断りします。」
兄を置いて、田中の家族に挨拶すると家を出た。
「わざわざ来てくれてありがとう。」
「一応付き合ってるんだ。気にするな。
そうだ、さっきの漫画面白かったから買いに行く。」
「貸すよ。買わなくても。。」
「貸すと戻ってこないぞ?」
「あげるよ。取りに戻るから待ってて。」
「いや、気持ちだけありがとう。やっぱ買う。陽が落ちるまでには帰れそうだし。」
「付き合うよ。」
「ん。ありがとう。」
「本屋は、こっち。ここから15分くらいだから。」
並んで歩く2人。変装もしてないが、人通りは少ない場所を
選んで歩く田中。少し遠回りだが、田中の気遣いだろう。
少し歩くと公園に差し掛かった。
この公園は幼年時代よく世話になった。
今はすっかり、遊具は撤去されベンチだけになっている。
これでも、ジャングルジム、ブランコ、うんてい、はん登棒、鉄棒・・
とかなり充実していた。今の残っているのは、シーソーとベンチだけ。
うるさいおばさん連中が危険だ!!と騒ぎ立てて撤去された。
幼年時代、ここの遊具で親父とお袋に遊んで貰った。
俺に子供が出来たら、同じくここで遊んであげたいと思ったもんだ。
俺が官僚になれば、再び遊具を設置する予定だ。
モンスターペアレンツ共は、自分が子供と遊ばな癖に、言う事は
迷惑な事ばかり。義務を全うせずに、権利だけを主張する。
こんな大人にだけは成りたくない。
無意識に、公園に足が向いていた。田中も、無言で付いて来る。
「ちょっと、座って行かない?」
俺がベンチに座ると、少し離れて座る田中。
この公園には思い出が沢山だが、普段通る時は思い出しもしない。
ベンチに座って見渡すと、思いでが次々に込み上げる。
思い出に耽っていると、視界を猫が横切る。
そこで、ハッと現実に戻った。
「シャールちゃんは、公園好きなの?」
返事の代わりに微笑んで目で返した。
田中は照れた様に立ち上がると、
「自販機で飲み物買ってくる。」
と照れくさそうに駆けて行った。
俺は再びベンチから辺りを見回し、物思いに耽った。
そんなに昔ではない。しかし遠い昔の様に感じる。
懐かしさが・・・寂しくもある。穏やかな不思議な気持ちだ。
スズメの囀る声が何とも気持ちいい。
これを心の洗濯と言うのだろうか。
そんな俺の前に、猫が寄ってきた。猫は好きでは無いが、
寄ってくる動物は何だって可愛い物だ。
猫を抱えて、膝の上に乗せると喉を撫でてあげる。
ゴロゴロと気持ち良さそうだ。
って・・・田中が遅い。公園の入口の自販機まで往復で
2分くらいだろう。だが、もう5分は経過してるぞ?
猫を降ろすと、自販機へと向かう。・・・ここを曲がれば自販機だ。
曲がって直ぐに、3人の人影が見える。
一人は田中だ。もう2人は知らない顔だ。一人は、ちょっと不良っぽい男で、
イケメンな方だな。もう一人は女だ。まぁ・・・80点。かなり可愛い方だ。
この2人は田中の顔見知りの様だ。
「だからさぁ~ ジュース二本奢ってくれよ。」
「一本ならいいけど二本分のお金はないよ。」
「可愛い真奈美を見れたんだ。拝見料出せよ。どうせこんなに近くで
女見た事なんてないだろう?その冴えない顔だと一生無理かもな。」
ぎゃははははっと下品に笑う2人組。折角のいい顔が台無しだ。
今のその顔を鏡で見せてやりたい。
「ごめん人待たせてるから。」
「ええ?お前・・・友達居るの?驚いたな。キモオタ仲間だろう?」
お金を入れて炭酸飲料のボタンを押すと、その男に何かお金を
渡してる様だ。出てきたのを、取ろうとすると先取りされてる。
「それ、返して。」
「いいじゃん。そこの公園の水でも飲んでれば?」
その男は、田中から貰った金を自販機に入れると連れの女に
何がいいか選ばせてる。
「一本返して。」
「んじゃ、お前が彼女じゃなくても女友達が出来たら1,000本奢ってやる。」
連れの彼女と顔を見合わせて、再びぎゃははははは!!!と下品に笑ってる。
はぁ。。。田中って・・・可哀想な星の下なんだよな。。
黙って静観してるのも飽きた。
「真人君。何してる?遅いから迎えに来た。」
「えっ?えっ??誰?誰??てかSNS話題の美少女じゃん!!」
「真人君の彼女のシャールです。宜しくです。」
可愛く言ってみた。俺、将来俳優目指そうかな。
「嘘だ!! ありえん!!」
「その二本のお金は、私が出したんだけど?勝手に取らないでくれます?」
「えっ?はい!はい!!返します。返します!!」
「それと、プラス1,000本ね?」
「あっ・・・・・・・嘘だ!信じられないぞ!!!無効だ!!
彼女所か、友達ですら無いだろう??だよな?なっ???」
「僕も信じれないけど・・・付き合ってるよ。」
「嘘だ!!! 嘘と言ってくれ。。。頼む。。一生のお願いだ!」
・・・こんな事で、一生のお願いを使うなんざ、軽過ぎる人生だな。
全般的に思うが・・・人を見かけで判断する奴は皆軽過ぎる人生だ。
俺は、その男に歩みより顔を凝視する。
見た目不良な格好とは裏腹に、照れてる。
「実物はめちゃくちゃ可愛いな・・・」
「中身の無い男に褒められても嬉しくない。」
二本のジュースを取り返すと、田中の手を取って一本返した。
「残念な人が選んだ、残念なジュースでごめんね。」
「な、何だよ?!それ!!!」
俺は田中の空いてる手を握ると手を繋いだ。
「いこ。」
「何だか・・・惨敗した気分だ。。。」
田中の手を握ったまま、公園から出た。本屋も行きたいし。
「ごめんね。塾が一緒で面識あるんだ。」
「おまえが謝る事はないだろう? それに俺を可愛いと思うなら
自慢してくれていいぞ?」
「自慢か・・・自慢できる事って何もないなぁ。。。」
遠くを見ながら言う。その横顔に哀愁が漂ってて同情してしまう。
すると後ろから、さっきの奴が追いかけてきた。
「待ってくれ!!ツーショットで一枚だけ撮らせてくれ!!」
「そ・れ・は・い・や。」
「減るもんじゃ無いし、いいだろう?田中からも頼んでくれ!」
「一枚だけなら・・・いいんじゃない?」
「田中。人が良過ぎ。本当に他の男と撮ってもいいのか?
嫌な事は、ちゃんと断れる男になれよ?」
田中は意を決した顔になり、俺の手を握った。
「僕だけの自慢の彼女。やっぱり撮らせたくない。」
「良く言った!!偉いぞ。」
この田中が・・・この田中が・・・めちゃくちゃ嬉しい。
思わず田中をギュっと抱きしめた。
「ほ、本当に付き合ってるのか??」
「そんな事で嘘ついてどうするよ?田中が嫌がるから撮らせない。」
そして再び、本屋へ向けて歩き出した。
呆けて見送る姿が笑える。それに一緒の連れの彼女の姿は無い。
飽きられて帰ったって所だろうか。 アホ過ぎて目も当てれないな。
「何だか、すごくスカッとした。ありがとう。」
「お安い御用だ。俺を可愛いと思うなら。自慢してくれ。」
「何だか・・・どっちが男か分からないね。」
「そうだな。まぁ・・・これでいいんじゃない?」
「そうだね。夢なら覚めないで欲しいよ。」
再び手を繋いで、微笑んで言った。
「この感触も夢か?」
田中は照れて俯いた。照れた田中は一言も話さなくなった。
手を繋いだまま、本屋へ向かう。
人通りの多い所まで来ると、本屋は直ぐそこだ。
手を繋いでる2人に、スマホのシャッター音が四方から聞こえる。
そしてアホ共が集まってくる。。
しかし、有名になると大変だな。。
田中は胸を張って、誇らしげだ。そんな田中を見ると嬉しくなった。
本屋に入ると、ここはここで・・・シャッター音がする。。
早々に漫画を買って店を出た。
すると、田中から手を繋いで来た。
俺はそれに応じて、家までの路を手を繋いだまま向かう。
「美女と野獣か?」「あいつ誰だ?」 等と声が聞こえる。
更に田中は誇らしげだ。そのまま家の付近まで手を繋いだまま歩いた。