2話 キモオタ田中
走ってトイレに駆け込んだ。
漏れそうだ。
「ぅぉぉぉぉぉ!!!」
「えぇぇ~~???」
変な奴らだ。野郎共が騒ぎ出した。アホ共は無視。
小便器の前で、やっと気が付いた。
付いてるものが無かったんだ。。。
それにスカート姿だ。間違えなく痴女だ。アホは俺だった。
慌てて女子トイレに入り直すが、ここはここで痴漢になった気分だ。
恐る恐る、個室に入り座って用を足した。
「ふぅ~~~」
女って色々と不便だな。
立ち上がってパンツを履いて、手洗い場に行くが手が汚れてる
感じはない。と、パンツが何かに濡れて冷たい。
・・・用を足した後に、拭く必要があったのだと初めて知った。
再度、個室に戻り冷たい部分にティッシュを当て、
手を洗いお袋の所へ戻った。
そして、他に必要な物がないか二人で考えながらデパートを徘徊している。
あり得ない事が。。お袋とのショッピングを・・・楽しんでいる。
・・・買い忘れもなさそうだ。デパートを出て車に乗り一息ついた。
そして家へと車を走らせ、やっと家へと到着した。
時間を見ると16:25を回っていた。
慣れない服やスカートをハンガーに掛けながら
明日からの生活に不安がよぎる。
ストレートロングのウィッグも外す。
ストッキングは・・・面倒でまだ脱いでいない。
色々な事があり過ぎた。心の休息も必要だと、ぼーっとした。
しばらくして部屋着のトレーナに着替えると、更にぼーっとする。。
が、現実に戻る。。。明日から学校だった。。。
はぁ。。。勉強でもするか。。。軽い現実逃避だな。
テキストを広げるが身に入らない。
パラパラパラ・・・テキストを弄ぶ。
ふと、気付く。
テキスト・・・俺の名が書いてある。
ノートもだ。それに、筆記具も。。。
早々に気が付いてよかった。
財布を持つと、再びスカートをはきウィッグを着けて女の子になる。
お袋の選んだスカートは全て短い。何考えてるだ。。お袋は。。
座っても、階段でもパンツ丸見えだぞ。。。ストッキングあるからいいか。
ストッキングは脱がなくて正解だったようだ。
外出に気づいたお袋が声を掛けてくる。
「洋一さん、どちらまで?」
「筆記用具一式を揃え忘れてしまいました。」
「お気を付けていってらっしゃいませ。」
軽く会話を交わすと、先ほど買った女の子用の皮の靴を履く。
スカートを広げ、何をしてるんだ。と突っ込みたくなった。
気を取り戻し文具屋へと向かう。
文具屋は、バスで20分くらいの距離。
最寄りの停留所でバスを待つ。
道行く男の視線が・・・段々とうざくなる。。
「ね~彼女~綺麗だね~ どこまで?」
変なアホが声を掛けてくるが無視。
しかし、あまりにアホがうざくて、歩く事にした。
「彼女~無視しないでよ~~。」
しつこく追ってくる。
それに、歩くと余計に目立つ様だ。停留所一区間歩いて再びバスを待ち、
文房具店のある商店街に到着した。途中ナンパ男は諦めてくれた。
バスを降りると、見た顔が前方に見える。数人に囲まれて蹴られている。
虐めの現場だ。虐められてる方も虐めてる方も知った奴等。
虐められてるのは、同じクラスの田中。
田中は良い奴だ。全て、中の下でルックスは下の下。
だが性格はトリプルAだろう。
小学校からずっと同じで昔から人の嫌がる仕事を率先してしてくれた。
俺は幾度となく田中に助けてもらった事がある。
試験中に、消しゴムを落として向こうの方へ跳ねて行った時、田中は無言で
自分の消しゴムを半分に割って、そっとくれたり、
テニスをしていて、最後の一球がフェンスを飛び越えた時も無言で探してくれたり。
その他にも、色々助けてもらった。
そんな奴は爆乳のアニメ萌え好きな奴で、見た目もオタ系。
クラスの女子からはキモがられてるし、ヤンチャグループからは
パシリにされてる。
虐められ気質?って奴だ。田中を俺のグループに入れようとしたが、
イケメン揃いの中で居心地が悪かったのだろう。
そんな田中が、同じクラスと隣のクラスのヤンチャ共てか・・・
不良共に虐められてる。
正直関わりたくない。今までも見て見ぬ振りをしてきたが心が痛かった。
今の俺は、俺であって・・・俺ではない。
助けてもらって一度も恩を返した事無い。今なら助けれる。
「お~い!!田中~~~!!」
大声で、叫びながら駆け寄った。
「誰?!」
「田中~暇だろう?買い物付き合えよ。」
巨乳が好きな田中の腕に巨乳を押し付ける。
「あんた誰?田中と知り合い?」
「ん?見ての通り。」
「嘘だろう!!こんな美少女と田中だぞ?そんな奴ほっといて
カラオケでも行かない?おごるからさぁ~。」
「田中がいいから貰ってく。んじゃね~。」
「待て!!田中は俺達と遊びたいよな?」
「田中は、巨乳の方がいいよな?いこいこ。」
オタオタして、何も言えない田中が笑える。が、
田中の腕を引っ張ってその場を離れようと試みた。
不良共は許してくれない様だ。
「ね~~少しでいいから付き合えよ!」
「田中を虐める奴と遊んでも面白いと思えないぞ?」
「いいから付き合え!!」
腕を乱暴に掴まれて、引き寄せられる。
俺がしがみ付いてる田中も巻き添えね。
勢い余って、田中の顔が俺の胸に飛び込む。
バランスを崩した俺は、田中の頭を抱いて
不良の足をガッツリ踏んだ。
「いで!!!」
「今のはそっちが悪い。」
田中の頭は、爆乳に埋もれたままだ。
頭所か、両手も両乳をしっかり掴んでる。
こいつ・・・どさくさに紛れて揉んでやがる。
不良が田中を見ている。
「何て羨ましい奴だ。
こっちは見れば見る程いい女だ。乳もでかいし理想の女だ。」
「おいおい。こっちも選ぶ権利あるんだぞ?俺は田中がいい。
って事で、んじゃね~~~。」
離れたがらない田中の顔を胸から剥がして
田中の腕を掴んで走って逃げた。
奴等は追いかけてこなかった。
これ以上走るのは正直勘弁。乳が弾けて痛いのなんの。
もう走りたくないな。
かなり全速疾走した。息が切れる。ゼーハゼーハする二人。
「君・・・誰???」
「あっ。うん。通りすがりの変な巨乳。」
「ブッ。君面白いね。僕も君みたいにはっきり物が言えたらなぁ。。」
「元気だせ!!お前は優しい良い奴だ!!」
田中の背中を叩いて励ます。
道行く奴等が、立ち止まってまで俺達を見てる。
やはり男限定だ。
街中で、男を叩く変な女に見られてる。
「んじゃ、気を付けて帰れよ。」
「あっ。うん。助けてくれてありがとう。
あっ。な、名前聞いてもいい?」
あっ。名前・・・何て名乗ろう。適当に言うか?
いや、明日からの事もある。
俺が抜けた席に、俺が座る事になれば、同じクラスだ。
ん~~~困った。
「あっ。ごめん。嫌ならいいよ。それじゃありがとう。」
田中は行ってしまった。
少しは恩返しできたな。
早々に文房具の店へ入り一式を揃えた。
まぁ。。。全然女子っぽくないペンケースにペンシル、蛍光ペンね。
流石に、うさじのピョンピョンキャラは無理だろう。
自分でも引いてしまう。いや、うさじならまだセーフかもしれない。
これにクマが入ったら、俺もアウトだ。
そんな下らない事を考えながら店を出ると・・・不良共が
俺を見つけて、駆けてくる。
まじ、勘弁してほしい。
「ちょにゅ~美少女ちゃん~~何してるの~~?」
うぜぇ!!もうこの世から消えてくれ。。心から願うが、細やかな
俺の願いは叶いそうもない。。。
無視して歩く俺に、行き成り壁ドン!だ。
乳が痛くて、走っては逃げれない。合気道で、関節取って隙を作っても
走れないから逃げれない。女の身体って不便だ。
その時、
「やめろ!!!」
それは田中だった。
どうも、俺をストーキングしてた様だ。
おいおい。。。
田中は勇敢にも、俺と不良の間に割って入る。
いやいや。。気持ちは嬉しいが、戦力外のお前が来た所で・・・
どうにもならないだろう。。
状況は悪くなった。俺は見た目女だし、痛い目は見ないだろう。
田中はどうだ?叩かれに戻て来た様なもんだ。
折角助けたのに、こいつは。。。
「何だ?田中。やるのか??」
「ひぃ。。」
まぁ。。予想を裏切らない当然の結果だよな。。
「どけよ!!」
田中は、俺を庇ってどかない。どいてもいいんだけど。。
折角勇気を出して、漢気見せてくれたんだ。
少し甘えるとするか。
不良共は田中に掴み掛かると、顔面を思いっきり殴った。
ガキッ!!
あっちゃ~~~。痛そう~~~。
2発め、3発目が顔面にヒットする。
もう見てられねえ!!
俺は、割って入る。
「おい。田中を離せ。」
「離したら、一緒に遊んでくれるのか~?だったら離してやる!」
余裕を見せる不良の顎に、硬く握ったグーをねじ込んだ。
バランスを崩した隙を狙って金的を狙った。
蹴り上げようとしたその時、
「まて!!」
違う方向から制止の声がする。
得意げに現れたのは、武井だった。
こいつは嫌な奴だ。
小学校の低学年まで、同じ道場で合気道を習っていたが、
途中から空手を習い始めて、俺をライバル視してる奴だ。
小学校と中学が一緒だったが、高校は空手の強い高校を選んだ。
会うのは、1年振りくらいだ。
当然だが、田中の事も良く知っている。
「田中に、あり得ない美少女!!二人相手に、大勢で面白そうな
遊びしてるな~俺も混ぜろよ。当然美少女側だがな。」
「ふざけるな!途中から割って入って痛い目見たい様だな!」
「痛い目見るのはどっちかな?」
かかってくる不良共を余裕でねじ伏せた。
・・・強くなっている。俺の合気道では、こうも簡単には倒せないだろう。
俺も空手習ってればよかった。。。
今更遅いが、ライバル視してる武井に勝てそうもない。
女の姿で、ホッとしてる残念な俺が居た。
「んで、こちらの美少女は誰?」
「ただの通りすがりだ。気にしないでくれ。」
「そんな訳ないだろう?!」
「いや、そんな訳だから。ときに、田中?
金取られた?今なら取り返せるぞ?」
「いや、君がその前に助けてくれたから。」
「それは良かった。だったら何か食わせろ?」
「えっ?」
「いや、だから。。。」
「田中とどんな関係なんだ?」
「だから、通りすがりで・・・
俺の乳に田中が顔を埋めて、乳揉まれたくらいだ。」
「ええええ???くらいじゃないだろう!くらいじゃ!!」
「いや、減る物でもないし大した事ない。」
「んじゃ、俺も顔を埋めていいか?」
「俺も選ぶ権利はある。こ・と・わ・る!」
「意味分からん。助けたヒーローの俺より田中か?」
「当たり前だ。」
田中が割って入る。
「そうだね。御馳走させてよ。」
「んじゃ俺も!!」
「お前は自分で金出せよ。」
「チッ。」
「てか、同行する事を許してないぞ?」
「ま~ま~。武井君が助けてくれたのは事実だし、
みんなの分御馳走するよ。」
「おっ。田中!!太っ腹だね~。遠慮なく御馳になります!」
「いや、田中とデートだ。気を利かせろ。」
「くぅ。。尚更邪魔する!!」
そして、3人でファミレスに移動した。