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梨花とは保育園からの友人である。
昔から私には到底理解できないほどの変わりもので、しょっちゅう周囲の人間からも「あの子とは仲良くしないほうがいい」などというあまり宜しくない評価を聞かされたものだった。
言ってはなんだが、自分でもそんな梨花とよくもまあ十五年以上も親しくしてこれたなと思う。どうやら私はよほど彼女といるのが楽しいらしい。
「二十八日の十一時ね。わかった! 英子より早く行ってターミナルで待ち合わせしよう」
私がすべてを言い切らないうちに梨花は元気よく承諾し勢いよく電話を切った。
私はまだ言いたいことがあったのだがかけ直すのもなんだか気が進まず、ひとまず自分の携帯をベッドの上に放り投げ、ついでに自分もそこに横になって眠ってしまった。
ところで私が先ほど何について梨花に言いたかったのか、話さねばなるまい。
まあ簡単に言えば、お餞別の品についてである。
もういつ会えるかわからないのに手ぶらでお見送りになど行けるものか。
「まあ、梨花はどうせ自分で用意するだろうし......」
私はぶつぶつ言いながら翌日、電車で隣町へと向かった。
だが電車のドアがピシャリとしまった時、肝心なことを思い出した。
はて、英子はどんな趣味をしていただろうか?
五年以上...... 五年以上一緒にいたのだ。五年以上同じ通学路を通り、五年以上同じ授業を受け、五年以上顔を合わせるたびに何かしらの言葉を交わしてきたのだ。
それなのに、私は彼女に何をあげたらいいのかわからない。彼女の趣味がイマイチ掴めない。
どんなに昔の記憶を辿ってみても「これだ!」と思えるようなものが何一つ無い。
これは一大事だ。
私は涼しい電車の中で静かに汗を流した。いや、これはもしや......
私は数秒間考えた。
これは、もしかして涙ではなかろうか? そうだ間違いない、涙である。
私が英子と過ごしてきた「五年以上」とは一体何だったのだろうと考えてしまったばっかりに、涙がこぼれ落ちてしまった。
というより、そもそも私は英子とそんなに仲が良かったのだろうか? ついでに梨花ともそんなに仲が良いのであろうか?
上辺だけのオトモダチなだけで、とりあえずナカヨシコヨシしていただけだったのではないか? 友達の趣味さえろくに理解していない私は本当に「友達」なのだろうか?
「女子の言う友情なんて信用ならない」とはよく聞くが、まさか......
自分がそれに当てはまるなんてことは......
ぐずぐず考えているうちに電車は目的地の駅に停車しドアにもたれ掛かっていた私はドアが開くと同時に勢いよくホームに飛び出してしまった。
周囲の人間の目線が痛かったがそのまま構わずエスカレーターに飛び乗った。
とりあえず餞別の品はアクセサリーにしようと決めていたので、駅から数十メートルほど離れた雑貨屋へ向かった。
雑貨屋特有の落ち着いた匂いが私を出迎えた。
ネックレス、ピアス、イヤリング、指輪、ストラップ、ブレスレットがキラキラしている。それらが一斉にこちらを睨んでくるような気がして、私は思わず顔をしかめた。
英子について分かることといえば、ピンクが好きなことくらいだ......
そうだ、とりあえずはピンクだ。ピンクのものだけ見ていこう。
私はそう思いピンクのものだけに商品を絞り込んでいった。
しかし、なかなかこれといっていいものが無い。
結局、私が選んだのは三色くらいの色が入った花のネックレスだった。
色合いがとても夏らしくなんとも可愛らしいと思ったのだが、どういう訳か店を出てからは「本当にそんなんで良かったの?」という声が頭の中でこだました。