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ユキバナ冒険記  作者: あきぐみ
第一章 新芽の冒険者
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【第二話】冒険者になろう

「へぇ~ケーザルさんって言うんだ」

「そうで御座る」

「素早い剣術だったよねぇ」

「ただ、あの狼を連続で相手するのはきつくて途中からは全然だったで御座るよ」

「でも早くてかっこよかったよー」

「そんなことないで御座る」


 武士(モノノフ)らしき少年は照れているのか、頬を赤くしながら頭を掻く。


「ハハ、どのみち君たちがいなかったら私はとっくに荷物ごと喰われていたから助かったよ」


 でっぷりと太った行商人が、馬を動かしながら陽気に笑った。

 ユキバナは行商人を助けたついでにちゃっかり馬車に乗せてもらっていた。

 馬車は道が整備されていないためか、馬車自体が古いのか、振動が激しいが初めて馬車に乗ったユキバナはこれが普通なのだと思っていた。


「いやーそれにしても、三匹がそっちへ行ったときは死んだかと思ったぞ。お前強いなあ」

「それほどでもないよー。それより風魔法だよね? 君の魔法剣はすごかったよー。私も練習してたんだけどあんまりできなくってさぁ」

「そういえばまだ若そうけど、何年くらいこういう仕事やってんだ?」

「え? 初めてだよ? こういうの」

「えっ」


 同じく馬車に乗っているのは先ほどフォレストウルフの集団と戦っていた二人だ。

 御座る御座る五月蠅いのは、赤い着物を着た少年だ。口調と服装から察するにユキバナの住んでいる地域に近い東の国の人間だろう。ユキバナの住んでいた島は東の国から少し離れているが、文化は少し似ていたりする。

 名前はケーザルだそうだ。年齢は自分より少し年上くらいだろうか。ユキバナはなんとなくそんなことを考えていた。

 もう一人のいかにも魔法剣士なチャライ格好をした人はホムリ。本当に魔法剣士らしく、魔法剣の威力は素人のユキバナが少し見ただけでもわかる通り、高そうだ。さっきは当たっていなかったが。


「初めて? それでフォレストウルフ三匹を同時に相手できたのか? まるで化け物だな」

「化け物って。勇者様とか言ってほしいなもう」

「でも、拙者では足元にも及ばんほどの実力に見えるが、本当に初めてで御座るか?」

「ほんとだよ。武器が物干し竿なのがいい証拠でしょ」

「ははっそれもそうで御座るな」

「物干し竿を装備したやつに助けられるとは思わなかったな」

「……ところでこの馬車どこ行くの?」

「「えっ」」


 三人は意外と気が合い、楽しそうに雑談していた。

 ユキバナが目的地を知らないことには少々驚いていたが。


「もうすぐ着きますよー。ほら、見えてきました。アレが新芽の街です」


 行商人の声に三人は反射的に前方を見た。

 すると、木々に挟まれた空間から抜けたため一気に視界が広がり、辺りに広大な草原が広がっていた。

 ユキバナは長年山と海に挟まれた村で暮らし、旅に出ても森の中を歩いただけだったので、ここまで広大な景色は初めてだった。

 草原の中に佇む巨大な都市が見える。あれが新芽の街だ。


「新芽の街って?」

「新芽の街ってのはなぁ、冒険者稼業がこの辺りではかなり盛んな都市だよ。近くに魔物が多いエリアもあるし、立地条件がいいんだ。お嬢ちゃんは初めてだろう?冒険者の先輩たちがいーっぱいるから楽しみにしておくといいよ」


 行商人さんは得意げに語る。


「わぁぁ~!」


 ユキバナは十六歳とはとても思えないような底抜けの明るさだ。きっと優しくて純粋な女の子なんだろう、と行商人さんは感心していた。


 それからしばらく馬車に乗り続け、一同は新芽の街に到着した。


「ばいばーい」


 ちゃっかりお駄賃を五百エンももらったユキバナは、行商人さんに教えられ、まずは冒険者ギルドへ行くこととなった。

 ユキバナの目的は有名な冒険者になること。それだけだ。

 仲間たちとの友情、そして絆。そんな物語のようなものに憧れていたのだ。勇者ってものになりたいのだ。憧れるだけなら普通だろうが、ユキバナのように実際に行動に移す人間は珍しいかもしれない。年齢も子供といってももう十六だ。

 街は随分と活気に満ちていて、あちこちで商人たちがいろいろな物を売っているのが見える。

 あれはなんだろう、これはなんだろうと田舎者のユキバナは大興奮だ。

 そしてひときわ目に入ったのが、大きなガサツな造りの建物だ。入口から中を覗いてみるが、様々な武器らしきものを持った人たちで溢れかえっていた。

 余計な装飾も無く、シンプルな建物だが、中は沢山の人が料理を食べたり、話し合ったりしていた。黒のマントに杖という、魔法使いらしき人たちも何人も見える。

 一つのテーブルにいた魔法使いが何かやらかしたのか、年上の金髪の魔法使いらしき人にぶん殴られるのが見えた。


(冒険者ギルドかぁ~。さっきの二人もいい人だったし、やっぱり本みたいに楽しい仲間たちとの友情と絆が……)


 ユキバナは頬に手を当て紅潮させながら冒険者ギルドの目の前で妄想していた。

 すると、うっかり人にぶつかってしまう。そりゃ前をろくに見ていなかったのだから当然だ。


「あ、ごめんなさい」


 ユキバナは適当に謝罪してすぐに歩こうとするが……


「こらテメェ! 謝るときは人の顔をしっかり見て謝らんかい!」


 怒鳴られてしまった。


「ごめんなさい」

「よし……じゃねえ! なんか腹立つなお前。お前みたいなひよっこが増えるせいで冒険者稼業は簡単だと勘違いされるんだよこのク ソ ガ キ!」

「そんなこといわれてもぉ」


 ユキバナは上目遣い――男の身長が男性の平均よりも普通に高く大きいので自然になるのだが――で縮こまる。


「あぁ?なんか文句あんのか?」

「いえっなんでもないです!」


 ユキバナは急ぎ足で冒険者ギルドの中へと逃げ込んだ。いかつい。ヤバい。などといろいろ失礼なことを考えながら急いで逃げる。

 冒険者ギルドの中に入ると盛り上がりは一層大きく、皆がわいわいと楽しそうに騒いでいるのが目に入る。

 初っ端からちょっとおっかない人に出会ってしまったが、ユキバナは気を取り直して冒険者としてやっていこうと考えていた。

 失敗は気にしない。


 さて、まずは何をすればいいのだろうか。

 ユキバナは入口付近から歩きつつも、ずっと考えていた。


「登録完了だ」

「ありがとうございます!」


 向こうで、新米冒険者らしき人が何やらカードを貰っていた。

 あそこで名前でも書くのだろうか、とユキバナは寄ってみる。


「よぅ、見ねえ顔だな。新米か?」


 カウンター越しに話しかけてきたのは、少し太った、優しそうなおじさんだ。


「新米です! えっとぉ、どうやったら冒険者になれるんですか?」

「ハハッ、簡単なこった。この機械に手を乗せてみな」


 そういいつつ、おじさんはユキバナよりも随分太い手で、何かの機械を取り出してカウンターに置いた。


「ここにカードを差し込んで、ここに手をかざしてみな」

「こう?」


 おじさんに言われた通り、ユキバナは四角形の機械の上に手をかざす。

 すると、四角形の機械は輝き、そこから先ほど差し込んだカードが自動で出される。


「おおー」


 カードには自分の種族、名前、性別が書いてあり、右側に大きくわかりやすく大きな文字で『F』と書かれていた。


「これがランクですか」

「それは知ってるんだな。そうだ。それがランクだ」


 冒険者のランクはFからE、EからE+……とFからAまでの順で上がっていき、信頼や実力に相当する。

 Aランク以上のA+、さらにそれ以上のSランクも存在するが、滅多に見られるものではない。単独で魔物の軍団にでも突撃できる実力だろう。ちなみに最低と最高のF+とS+は存在しない。

 それにしても手をかざすだけでいろいろわかるというのはどういう構造の機械なんだろうか。ユキバナは少しだけ疑問に思ったがどうせ知っても意味が無いと思い気にしないことにした。


「あ、ちなみに俺の名前はジャッキーだ。よろしく頼むぜ」

「私はユキバナです!」

「ははっ、見りゃわかるさ」


 ジャッキーはその太い人差し指でユキバナの冒険者カードを指した。


「あっ、そうそう。冒険者カード発行でも金は払ってもらうぞ?期限までに払ってくれるなら待ってやるがな。とりあえず二百エンだ」

「はーい」


 ユキバナは言われた通り、袋から可愛い桃色の財布を取り出し、二百エンを払う。


「ごめんね、二百エンさん」


 ユキバナは今にも泣き出しそうな目で、体も小刻みに震えていた。


「何言ってるのか知らんが早くしてくれー」


 手を伸ばしたままのジャッキーははぁ、とため息をついた。


「そうそう」


 ユキバナが外へ出ようとしたところで、ジャッキーがまた声をかけた。


「お前、職業は何だ?」

「職業?」


 ユキバナは何それ? と言わんばかりに首を傾げる。


「ほら、ウォリアーとかウィザードとかあんだろ?」

「えっと、えっとお」

「まぁ前衛職だけでもウォリアー、ナイト、モンク、チーフ、とかいろいろあるし、○○だから△△しかできないとかはないからな。自由に決めればいいさ。別に特に決めなくてもいいが周りからわかりにくいだろう」

「ウォリアー?」

「ウォリアーはほら、よくわかんねえけど剣士とかそういうのだ」


 この世界では職業は無数にある。それはもうたくさんだ。なんたって自分で特殊な名前を名乗る者もたくさんいれば、地域によって名前が違ったりもする。

 格闘が得意なウィザードもいたりして何が何だかよくわからない状態になっているのが現状だが、一般的なイメージではアタッカーのウォリアー、守りのナイト、攻撃魔法のウィザード、回復魔法のプリースト、といったところだろう。

 募集内容でも大雑把に『アタッカー』としか書かれていないことが多い。


「私は……魔法戦士かな?」


 剣も使えば槍も使うし挙句の果てには弓やら魔法やら格闘やら本当にいろいろなことをしているユキバナにはよくわからなかった。今は物干し竿だが。



「まずはお金を溜めないとね」


 宿を探してみたのだが、いくつかある中で安い宿では一泊十エン。お高い宿では百エン以上だったりといろいろだった。ユキバナはどこでもいいのだが、なるべく風呂付の宿にしたいので値は高いだろう。まずはお(エン)を稼がなければならない。

 ユキバナはとりあえず百円エンの、風呂が付いている宿へと入った。

 ユキバナは風呂が好きなので、風呂が付いていることは必須事項だった。

 とりあえずいくつも宿がある中、なんとなく見つけた『風鈴の宿』へと入ってみる。名前がかわいらしいからだ。名前がかわいらしいから、きっと凄い顔したおじさんとかはいないだろう、とも考えていた。 前向きなユキバナにとっても、あの大男はトラウマである。

 入口にはいくつかの綺麗な風鈴が付けられていた。


「お邪魔しまーす」


 恐る恐る宿の中へ入ってみる。また怖い人にあったら大変だ。宿の主がいかついおじさんだったらどうしようか、追い出されないだろうか、とユキバナはいろいろ思考を巡らせていた。


「あらいらっしゃい。新米さん?」


 予想に反して、宿の主らしき人は温かい印象を受ける女将さんだった。まだニ十歳前後で、若そうだ。

 よくぞ新米と見抜いた! と言おうと思ったユキバナだが、この宿に来るのは新米が多いのだろうか、と考えていた。

 ちなみに女将さんは、微笑ましそうにユキバナが背中に背負った物干し竿を見つめていた。


「そうなんです。この宿にはお風呂があるって、看板で見たから来たんです」

「まあ、確かにお風呂がある宿の中では普通のお値段だけど、どうしてここへ?」

「風鈴ってのがいい印象を受けたんです」


 実際には風鈴と可愛げな名前なら怖い人はいないだろうという変わった考え方だったが、言わないでおいた。


「部屋は空いている部屋から好きな部屋を選んでってね。食べたい時に朝と晩のご飯を用意するから、言ってちょうだいね」

「はーい」


 さて部屋に荷物を置いてからは一度冒険者ギルドへ行ってみようか、とユキバナは考えた。

 ……早くお金を集めなければならない。早速冒険者ギルドへと歩き出していた。

 少し張り切りすぎて急いでいたために、五分もかからないうちに到着する。元から宿屋との距離が近いのもある。


「へぇ~」


 ユキバナは掲示板を見つめてた。

 冒険者はカウンターの職員から『クエスト』というものを受け、それで賃金を稼ぐ。

 クエストには魔物の退治から採取以来、護衛や荷物運びなど雑用も含め様々な種類がある。ユキバナは死の恐ろしさを全く考えていないため討伐類のクエストを受けようと考えているが、中には雑用系の依頼ばかりで賃金を稼ぐ者もいる。

 危険も少ない分魔物討伐依頼なんかよりも報酬は少ないが、逆に危険が少ないため死と隣り合わせにならずに済むのだ。命優先だ。

 ちなみに掲示板というのは、一つのクエストを同じ人たちで共有される場合に用いられる。

 例えば数人でのPTではなく個人で依頼を受けているものの、相手が危険な場合は他の人の助っ人が必要だ。そして、同じような状況に陥っている者又は何かいい依頼を探してる者と組む。それが普通だ。冒険者ギルドでは掲示板によってそういった交流がしやすい環境になっている。大抵は自分で紙に依頼内容と自分の職業やできること、一言などを書いて画鋲で止めておく。

 また、普段から普通の依頼もギルド職員によって掲示板に貼られていたりする。皆がよく注目するところに貼るのは当たり前といえば当たり前だ。掲示板で依頼を確認して、受付でその依頼内容と一致する依頼契約書にサインするのが普通だ。

 ユキバナはとりあえず、初めての記念になるような依頼を探す。やはり討伐依頼がいいだろう。

 中にはDランク以上!など制限が設けられた依頼も多い。


「う~ん」


 とりあえず、とユキバナが手にしたのは『ブルッファーの牙六本の納品』だった。

 ブルッファーが何かは、ユキバナは全くもって知らなかったが。

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