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プロローグ2

 ここは、遠野の一地方、八鬼(やおに)市福豊、そこのそこそこ大きな稲荷神社である。


「なぁ、頼むわー」


 大柄な男と、小柄な女が向かい合い話をしていた。男は何やら懇願し、女はそれに腹を立て不機嫌でございますと全身で表現していた。


「お前さまのお願いは聞き飽きました。アタイがどんな思いで前回、前々回と話を聞いたか。お前さまは考えてくださいません」


 男は困った、前まではうまくいったのに。ここにきて、これである。今日は大切な日であるというのに、刻一刻と時間は過ぎてしまう。


「そこを何とか、なっ。今度はお前の分も用意するか、ら…」


 男が、必死で考えた回答はどうやら女の逆鱗を踏んだようで、お前のと言ったときには眦が吊り上がり。分もと言う頃には『わなわな』と震える女に男も気が付いたのである。正に怒髪天を衝くといった勢いで女が男に迫る。


「お前さんは、本当に。なんでですか。ここの所の行いときたら、もう堪忍の緒が切れましたからね。こちらにいらしなさい」


 そういうと、女は男の耳を引っ張り稲荷神社の社へと入って行った。


 身の丈、2メートルの筋骨隆々の大男、髪は赤く、よく言えば精悍、野性味溢れる顔つきの男。名をヤオヌと言う。


 身の丈、1メートル50ほど小柄で、髪も眉毛も白く腰まである長髪を後ろに流し。優美と言われる顔つきと、華奢と言われる手足に、不釣り合いにせり出した胸と尻。豊穣と安産の象徴が著しい成長を遂げた女を福豊と言う。


 二人は、ここ福豊稲荷に住む2柱の神である。


 稲荷社の中に声が響いている、常人は感知できないのをいいことに福豊は日頃の鬱憤を発散していた。


「それは、アタイ達は古い付き合いさ。豊受さんの言い付けとは言え、お前さんには世話になったしこの社だってもとはお前さんのだよ。だけどね、お前さんのこの所のあり方と言ったら、アタイは涙が出る。朝に寝て、昼過ぎには起きてきてワザワザ人に化けてまで出かけていく。出かけるのが悪いって言ってるんじゃないよ、そら偶には散歩に行ってみることだったいいことさ。だけどもお前さんときたら、神力を使ってまで玉遊びするのはどうかと思うのさ。毎日、出かけては玉を動かして。あんな煩い、臭い、穢れてると。アタイ達が近づいちゃいけない最たる所じゃないかい。……」


 ヤオヌは俯き、自分がハイと言う機会であることを想像していた。ヤオヌが行く遊興施設は、玉を穴に入れれば玉が増えそれを景品に変えることが出来。たまたまその景品を高額で扱う店が近くにあるタイプの奇跡的に立地に恵まれてるお店である。昨今の人の世は煌びやかで、福豊に人に化ける方法を聞いてからは半ば入り浸っていたのだが。どうにも、金とやらが必要で、それを手に入れるのには前述の方法が最も手っ取り早くやっていたのだが。


 いつの間にか豊穣の神として祀られている福豊稲荷は、自身の働き以上に成果を得ることを嫌っており。鼻の利くため、煙草においと沢山の人の臭いを伴って帰ると機嫌を損ねる。その上、身の丈以上の欲が渦巻いているので少なくない穢れも社に持って帰っては払われた。


 今回にしても、近くの店の新装開店に伴い軍資金を融通して貰おうと声を掛けたところの体たらくである。


「まぁ、百歩譲って。玉遊びはいいとしてだね。その後の、夜遊びはどうかと思うのさ。玉遊びで稼いだものを毎日全部使って、酒を飲み女を囲う。神だからさ酒はいいさ、でも女を囲うってなどういうことさ。お前さんの目の前のアタイも一応メスなんだが、酌は毎日してたろうに。お前さんはアタイの何がきにくはないんだいっ!」


 そういう話ではないのだが、人間の女とはいたしたことがないのにこの怒りようである。そもそもの夜遊びは、福豊が毎日の酒盛りに飽きてテレビとネットにはまり出し。そのうち横で騒がしいヤオヌがオックウになり、小金を握らせて社を追い出したのが始まりだったのだが。賢明なヤオヌは不用意な発言を控え、夜の街で鍛えた話術で福豊を籠絡していく。


 長くつらい交渉が終わったのは、おてんとうさんも沈み始めた頃で。新装開店のねらい目の店に行って今夜は宴、とか思っていたのに侘しい気持ちになるヤオヌであった。


 こんな時は、秘蔵の酒を飲んで寝てしまおうと福豊と揃い立って社をでて見ると見慣れた黒づくめが境内に入ってくるのが見えた。180程の長身に相応しいく泰然とした印象を受ける、金髪碧眼で柔和な顔をしている。黒のシャツ、黒のスーツにカラスマントを来た怪しげな男である。男はヤオヌと福豊( ・・・・・・・)を見ると破顔し声を掛けてくる。


「ヤオヌの兄ぃ、朝から約束すっぽかすならメールくださいよ。今まで打ってたんですから、ヤオヌの兄ぃがいないと夜の狩りが難易度上がるんすよね。あ、福豊の姐ぇこれ土産の酒と肴です。兄ぃが来ないから切り上げて姐さんの好きな揚げとジャーキーの高いやつ買ってきましたよ」


 コートの影から明らかに容量の合わない品をだし福豊に見せる男、今までの不機嫌さを何処かへ飛ばした福豊が袋を覗き込みながら歩き始める。


「これは、いい品ですね。お気遣い感謝しますよ、ヘルムント。これからヤオヌの社で一杯するところです、一緒に来なさいな」


「すまんなヘル坊。朝から福豊に絞られてなぁ、連絡する隙がなくてな」


 男に声を掛け、山を登り始めるヤオヌと福豊、始終にこやかに付き従う男。男の名をヘルムント・アイガッドと言い、こう見えて吸血鬼である。西洋文化の隆昌と共に日本にやってきて猛威を振るっていたのだが、福豊稲荷の神主家の娘を狙ったのが悪かった。福豊のヤオヌがちょっと引くぐらいのお仕置きを受けて、そこをヤオヌが取り成したことから関係が深まって行ったのである。以来は福豊を姐とヤオヌを兄ぃと慕い、主にヤオヌの遊び仲間としてこの町で暮らしていた。何より夜の遊びの派手なヤオヌといると血が吸い易く、ヘルムント自身もこの関係を重宝していた。


 福豊山の山頂にある、ヤオヌの社。もはや山すら福豊の神体山とされていて、この場所にいると福豊は機嫌がいい。そこでヤオヌの接待が始まる。一反の許しを得たとはいえ、これから先も夜遊びをしたいヤオヌとしてはここでいかに福豊の機嫌を取るかで今後の生活が決まる分水領であった。


 空気の読めるイケメン、ヘルムントもヤオヌの空気を感じ取り追撃をする。二人に宥め褒められ、すっかりホストにはまるOLのように有頂天になる福豊。世俗の波に揉まれて無いから効果は抜群であった、接待宴会は奇声によって阻まれた。


『ふははははは、キタコレ。山中のうらびれた神社。町の中心の一番のパワースポット。これなら勝てる。』だとか『キター、いや、むしろ俺の時代が来るー!なんつって』『へへへ、もう練習しとくか。アンタが俺を呼んだのか』『いや、ここはやはり。問おう、貴方が俺のマスターか?みたいに決めるか』などと、独り言には大きすぎる声色で言い放ち。ヤオヌのおべっかを遮られ、ヤオヌの懇願を遮られ、最後の色仕掛けも良い所で台無しにされていった。


 この間、社の外では境内の中心に、でかでかと何者かにより西洋の魔方陣が書かれていた。書いている人物は、この魔方陣を書くときにはこれから起こる自身のハッピーライフを想像して、恐ろしいほどの想念を込めて毎回完成させている。


 何時もは、この妄動は失敗していた。この魔方陣を書いている人物はとりわけ何の才能もなく、そんな自分に嫌気がさして本気で異世界へ旅立つことを求めている高校生なのだから。魔力も妖力も霊力も神通力も超能力も持っていない、ただの人間。どうしようもなく変哲ない自分に、凡人であることを認めたくない一心で調べた。結果は異世界転生、転移、もしかしたら眠っているかもしれない力を夢想する日々であった。それでもと、自分なりの妄執でパワースポットを回り自作の魔方陣を書いては転移を試みるのであった。東尋坊、日光、高尾山、富士山、伊勢、出雲、高千穂、沖縄といたるところで試し、失敗に終わっていた。そんな、失敗を重ねるうちにネットのオカルト情報通の間で有名な地方都市、八鬼市福豊町を知りここに来たのであった。


 現代でも僅かに残る霊能力者や超自然的な力を繰る者たちの間で、一切の怪異を認めない町としてその名を轟かす福豊。逃げてきた魔性、羽を伸ばしたい神霊、オカルト的に脛に傷を持つ者たちの最後の居場所。狭く閉鎖的な業界内でも特異な完全中立地域、それがここ八鬼地方である。あまりにも特異すぎて、謂れも公然の秘密であるが力を持たない者たちには認識できないため、業界外のなんの力も持たない人々もなんか凄いパワースポットとの認識を持ってしまい、福豊稲荷は結構な観光地として集客を集めていた。


 だからこそ、ただの高校生で転移希望者の 藤野 忠仁(ふじの ただひと)は夏休みを使い、東京からこの地方まで来ることが出来。今奇声を上げながら魔方陣を境内にペンキで書いているのであった。


「俺は地球人をやめるぞぉ!!」


「うるせぇえぞ、小僧。真夜中に人んちで奇声を発しながら落書きするな!親が泣くぞっ」


 遂に、我慢の限界を迎えたヤオヌ、興の冷めた福豊、困り顔だが好奇心をはらんだ目で成り行きをみるヘルムント。勢いづけて戸を開きズンズンと忠仁に近づくヤオヌ、ついていく二人。


 いきなり、顔を赤く染めた大男に怒鳴られ完全に委縮してしまい固まった忠仁、こんな夜中に神社にいる大柄な男と言えば不良に決まっている。男2人に美女1人ただれた関係を夢想し、そんな人たちに絡まれた自分のこの後の末路を想像し恐怖に震えた。


「あっ、しかもこれペンキじゃねぇか。てぇめぇこれ誰が片すと思ってやがる、片づける人の事も考えろコラっ」


 もちろん、この社を片づけるのはヤオヌである。機嫌がいいと福豊も手伝ってくれるが、今回は完全にヤオヌが片づける事になるだろう。そんなことを考えてしまうと余計に頭にくる。ヤオヌはますます意気盛んに迫りより、魔方陣の中心の忠仁を睨みつける。自身に目線を合わせる忠仁に違和感を感じながら詰め寄る。


「お前のせいでパチンコに行けなくなるかもしれないんだぞ!あぁあ?」


「ひっ、すすす、んません!」


 思わず謝る忠仁、野性味溢れる大男に怒鳴られる事で完全に委縮してしまい、言葉がうまく発することが出来なかった。そこで、福豊が違和感に気付いた、この盆暗はアタイ達が見えている。ヤオヌに怯え、ヘルムントに怯え、アタイの胸を見てくるのだ、せわしなく動く目線のうちにヘルムントはとも角として人に化けていない神霊を見ることが出来ているのだ。そのような才が無いことは解って(・・・ )いる。でわ原因はと見れば、足元の魔方陣が光を僅かに発しているではないか。盆暗、ヤオヌ、福豊と足を踏み入れるたびに光が強くなっている、これはいけないとヘルムントを見れば。自身の後ろでしっかりと方陣内へと入っていた、三人が中央近くに来たからだろうますます魔方陣が輝きを強めている。


「小僧、これは何の方陣だい!?」


 悪寒を感じた福豊は、方陣から出るために動けば障壁に阻まれる。


「おぉ、なんじゃこれ」


 ヤオヌは、不思議な現象に戸惑い。


「嘘だろう、こんな出鱈目な術式で効力なんてある訳ないのに。すごいな」


 ヘルムントは、文字通り子供の落書きが魔術として用をなすことに感激し。


「あれ、え、まじで?」


 忠仁は、初めての成功が寧ろ信じられなかった。


 いよいよ、勢いを増す発光に目の前が塗りつぶされ途端に浮遊感に包まれる。深く深く世界を堕ちる、落ちていくことが認識できた、すると今度は薄い何かに阻まれた。薄い何かにあたると何かはひどく伸びていき、まるで水滴のように自身と何かの中のものを巻き込んで再び堕ちる。自身が何かに満たされた薄い膜に覆われたのがわかった。そしてまた、感触。今度もまた薄い膜にあたり、何かを巻き込み膜を作り、何かの中に堕ちていく。堕ちているのに浮き上がる感覚がすると、終着点に付いたことがわかった。


 界渡りをすました、そう認識した人外たちであった。












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