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回想~鈴音~
生まれる前から私の運命は決まっていた。
幼少期より様々な分野の学問を学び、知力、体力といった単純な能力値は異常に高く父親譲りの天性のものだったらしい。
母親という存在を殆ど知らず、父親ともほぼ顔を合わせられなかった私にはいつも家政婦達が母親代わりとして面倒を見てくれた。
まともな子供が経験するような幼少時代ではなかった私の人格形成がマトモに育ってきたのは多分にその家政婦の女性達のお陰だろう。
家政婦の女性達は皆実の母親のように私を育ててくれた。
感謝した。私も彼女らを母親のように慕い、そして甘えた。
しかし彼女らは私が成長していくに従い、次第にその態度を一変させた。
たった10歳やそこらで花菱家の総本家跡継ぎとして教育され、徐々に子供らしさを失っていた私をいつしか彼女らは媚びへつらうようになったのだ。
私に心から愛情をもって接してくれる大人はいなくなり、「お世話をする子供」ではなく「花菱」の直系の息女として接するようになってしまった。
もちろん何年も接しておいて何の情も沸かなかったわけではないと思う。
──けれど人は権力や地位に弱い。
ましてやそれほど大きな街ではないここでは花菱の名前は絶大だ。
私に取り入ろうとする者やあからさまに財産目当てに近づいてきた者は腐るほど観てきた。
幼少の頃より私は膨大な量の勉強や習い事に明け暮れていて自由な時間も殆ど無かった。
それが当時の私にはたまらなく窮屈だった。
一度どうしても遊びたくて、習い事を放り出して友達と遊んだことがある。
その日親類達から「折檻」と称したあの虐待まがいの行為によって出来てしまった痣は未だに腹部に残っている。
私はその「折檻」を受けることが怖くて、2度と彼らの言うことに逆らわなくなった。
私が12歳の頃には、人は欲深く、人生はつまらなく、愛情とは絵空事なのだと考える悟ったような子供になっていた。
けれど、家族というものは別なのだとも思っていた。
ロクに話が出来なくても父は私を愛していて、親子の絆は絶対なのだと、父だけは他の花菱の人間とは違い、地位や名声などなくても私の味方でいてくれると。そう信じていたのだ。
親として何一つ事を成していない人間を親子という理由で無条件に信じ込む。
我ながら吐き気のする純真さだ。