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一体何が俺達の周りに起ころうとしているのだろう。
最近の鈴音の憂鬱の原因。
突然現れた鈴音の父、花菱蔵人。
そして様子のおかしくなった今日の鈴音。
そして──千鶴。
何故鈴音父の口から千鶴の名前が飛び出た?
俺の事も知っている風だった。
そして鈴音はその事が露見されるのを極端に恐れていた気がする。
──少なくとも心の準備が必要なほどには言いあぐねる内容なのだ。
俺、千鶴、鈴音。
三人を取り巻く日常は少しずつ変化していった。
誰かと出会って何かが変わる。
人生とは得てしてそういうことの繰り返しなのだ。
ならば、今回のことは俺達にどんな変化をもたらすのだろう。
「ずっと一緒にいれりゃ…俺はそれでいいんだけどな」
日も暮れ始めた校門前でひとりごちる俺だった。
× × ×
その日の深夜のことである。
唐突に携帯が鳴った、鈴音から電話だった。
「はい」
『圭吾、寝てたか?』
「いや起きてたよ」
『そうか……今圭吾の家の近くの公園にいる。……出てこれるか?』
「え? 帰ってくるの明日じゃなかったの?」
『すぐに用事を済ませて私一人で帰ってきたんだ』
「そ、そうか。よし待ってろ、すぐ行く」
『うん…待ってる…』
弱々しい口調でそう言うとプツリと通話が終わったので早速着替えて件の公園へ向かう。
──公園に着くとすぐに鈴音は見つかった。
月明かりに照らされた鈴音は何処か怪しい美しさを放っていてその表情はよく見えない。
「よ、おかえり」
「…うんただいま」
「会合とやら、どうだった?」
「どうもないさ、父のビジネスの手伝いをしに行っただけだ。大した感慨もない」
「ビ、ビジネスって…お前まだ高校生だろ?」
「そんなものただの符号だ。…花菱の家にとって年齢など些末な問題らしい」
「お、おいさっきから何言ってんだよ、娘だろお前。道具なんて──」
「……そういう家系なんだ、花菱家は」
ひどく物悲しそうに鈴音はそう断言した。
「圭吾。今から君に全て話そう。花菱家のこと、私のこと──そして千鶴のこと。君に全て…打ち明ける」