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「安心しろ、その時は勇者として私が君を成敗してやる」
「俺の仲間になれば世界の半分をくれてやるといってもか」
「だったら君を倒せば世界は全て私のものだな」
「お前のほうが魔王っぽいじゃねえか」
鈴音はその物腰や真面目な態度、生徒会長としての立場から堅物だと思われることが多いが割りとこういうアホな会話にも乗ってきてくれる。
「まぁ今から千鶴と帰るんだよ、晩飯の買い物にも行くんだ」
嘘は言っていない。正確には千鶴を待つ時間が多く見て1時間はあるというだけだ。
千鶴に甘い鈴音のことだ、あっさりと引いてくれるはずっ。
「千鶴のクラスは文化祭の話し合いで、それまで手持ち無沙汰なんだろうが」
「げ! 何で知ってんの!?」
訝しげに鈴音に視線をやる。
ま、まさか…エスパー…!
「楽しげな想像のところ悪いが、さっき偶然会ってな、千鶴に聞いただけだ」
なんで俺考えてること分かるんだよ。本当にエスパーじゃないのこいつ。
「そういう話し合いは得てして時間がかかるものだ。だからそれまで━━」
「はぁ…じゃあアップだけな」
仕方なしにアップだけ付き合うことにする。
それくらいなら別に良いだろう、最近少し身体も鈍ってるしな。
鈴音にとってはかなり予想外の返答だったらしい、目を丸くして俺のほうへ目をやる。
「え? …いいのか?」
自分から誘っといてなんで不安げ?
「誘ったのお前だろ。やっぱ嫌なのか?」
これで「いやすまない…べ、別に本気だったわけじゃ…あ、まぁホントに来る…? 別に私はどっちでも…」とか困り顔で言われたら俺のメンタルは大変なことになる。
具体的に言うとマジ泣く。布団に包まりながらマジで泣く。
けれどこいつに限ってそんな心配は杞憂だったようだ、鈴音はすぐに嬉しそうな顔になり俺の手をとった。
「そ、そんなことないぞ! よし行こう! すぐ行こう!」
言うやいなや俺の手をぐいぐい引っ張りグラウンドへ連行する鈴音。
駆け足な上あまりにも力一杯引っ張りまわすものだから俺は足が追いつかず、途中で躓き体制を崩しかけてしまう。
「わ、わかった! わかったからあんまぐいぐいひっぱんな! こける! こけるから! アッーーーーーー!!」
──実に1年ぶりの部室である。