23P
「…じゃあ1つ、いいか?」
「ん、どうした? 言ってみろ」
「実は少し寝不足気味でな…。──少しの間肩を貸してくれ」
言うやいなやポスっと俺の肩に顔を乗せる鈴音。
「お、おい鈴音、誰かに見られたらまた誤解━━」
言いかけて止める。
既に鈴音がすうすうと寝息をたてていたからだ。
よほど疲れていたようだ。
体力無尽蔵の鈴音がこんなに疲弊しているのはやはりおかしい。
こいつ今どんな厄介な問題抱えてんだよ…。
肩に感じる心地の良い鈴音の重さとその温度をいたわる様に、慈しむように殆ど無意識にその頭を撫でる。
俺は鈴音が好きだ。
こう言ってしまうと色々誤解が生じるかもしれないが俺は本当に花菱鈴音という人間が大好きだ。
鈴音のためなら大抵のことは頑張れる気がするしこれから先もずっと仲良くやっていきたい。
きっとこの先鈴音はもっともっとすごい人間になるだろう。
俺みたいな平凡な人間には到底及びもつかないようなすごい人間になって、その豪快さと純真さで沢山の人達を救うような人間になるだろう。
だからせめて今は、せめて俺の届く距離の中に居る内は、鈴音の力になりたい。
今俺は少しでも鈴音の助けになっているのだろうか。
気持ち良さそうに「…ん」と少し身じろいで静かに眠る鈴音はその後チャイムが鳴るギリギリまでこのままだった。
× × ×
──唐突だが明日には親父と母さんは帰ってくるらしい。
という訳でそうなるとまた俺の生活ライフはバイト漬けとなり、千鶴も弓道部や生徒会に再度精を出すという生活に戻っていくだろう。
両親が帰ってくるのは嬉しいのだが、千鶴と居られる時間が少なくなるのはちょっぴり寂しい。
なので今日は千鶴と一緒に晩御飯の買い物にでも行こうという魂胆だ。
先程メールで千鶴にも了承を取ってある。
柄にもなくウキウキとした足取りで俺は教室を後にした。
と、その時電話がなる。
ディスプレイには千鶴と表示されていた。俺は迷わず電話に出る。