21p
「いや、本当にご協力ありがとうございました!」
コンビニの店長にペコリと90度お辞儀をされる。
「──いえ、大したことは」
女の子は本当に大した事ではないというように軽く会釈して事務室を去っていく。
「あ、ど、どうも~失礼しました~」
愛想笑いを浮かべながら俺も事務室を後にする。
俺にまで誠心誠意お辞儀をしてくれる店長の心遣いは嬉しい反面恥ずかしい。
先輩の万引きを見たのは確かに2人だったかもしれない。
けれど一方は面倒事を恐れて「なかったこと」にしようとし、一方は迷わず躊躇わず正しい方を選んだ。
俺が先輩を追いかけたのだってそうさ。
ただ女の子に触発されただけなんだ。
ならば俺に手柄があるとすれば全部それはあの女の子のお陰だ。
──それにしても凄まじい子だった。
年上相手にも全く怯まない度胸。
相手を一発で黙らせる威圧感。
射殺されるかと思うくらい鋭い眼光
そしてあのドロップキックだ。
漫画か何かからそのまま出てきたみたいな痛快なカッコ良さだった。
同じ学校の同級生らしいので、その内学校ででもすれ違うかもな。
──と思いながらコンビニを出た曲がり角の手前にまるで誰かを待つようにその女の子はいた。
一瞬時間が止まった、気がした。
目があった俺は軽く会釈して女の子を通り過ごそうとするが、
「──ちょっと待ってくれ」
──キュッとブレザーの裾を掴まれた。
「………は、はい?」
思わず女の子に向き直る。
そこで俺達は初めてお互いと向き合ったのだった。
「さっきはゆっくり話せなかったので君が出てくるのを待ってたんだ、済まない──」
年上の男を一睨みで黙らせたあの鋭い眼光は実はただの大きくパッチリとした美しい瞳で。
「あの時君が犯人を追いかけて止めてくれなかったら捕まえることは出来なかった。──本当にありがとう」
威圧感たっぷりだったあの冷たい声はよく聞くと透き通ったように澄んだ綺麗な声で。
「実を言うとな1人で向かうのは少し怖かったんだ。あの時君が即座に追いかけていった時──味方がいたんだと心の底から頼もしかった」
整った目鼻立ちとぷっくりとした桜色の唇に滑らかな白い肌。
健康的なスタイルとそのサラサラの黒髪がよく映える──。
「──私の名前は花菱鈴音。君は?」
とんでもない美少女だった。