20P
いや逃げられた、はずだった。
何せ店内全てにその騒ぎが伝わったのは先輩が逃げ出してからだ。
店員は呆然としてるし、女の子は反応が一瞬遅れたしそこそこ先輩は早かった。
あれならきっと短距離走で凄い記録を出せるのではないか。
益体もないことをその時ばかりは考える余裕は全くなかった。
──気付けば俺は先輩を追いかけていたのだ。
どうして反射的に身体が動いたのか今でも分からない。
どうしてこんなことをしようとしたのか今でも分からない。
ただあの女の子の凛々しい立ち姿だけが脳裏に焼きついて離れない。
俺が面倒事とか今後の学生生活とか、言い訳じみたクソみたいな理論を頭の中で並べ立てあげていた反面、女の子は果敢にも悪を悪だと糾弾しその行動に躊躇も怯えも一切見せず、美しいまでに正しくあろうとしてみせた。
そのことに尊敬を覚えた。
同時に自分が酷く惨めで情けない存在だと思えてしまった。
カァっと顔が熱くなるのを感じて、その熱は身体の芯にまで染み渡るほど広がって。
ほとんど反射的にコンビニを駆け出したんだ。
「待てええええっっ!!」
先輩は走りながら一瞬後ろを確認すると更にスピードを上げて俺を蒔こうとする。
だけどいくらスピードを上げても、脇道に入って振り切ろうとしてもどれだけ走っても追っ手は振り切れない。
ランナーズハイという言葉がある。
時に人はある事がキッカケになり心身ともに限界を超え、信じられない力を発揮することがあるのだ。
その時の俺がそのランナーズハイだったのか今となってはわからずじまいである。
やがて体力の限界が来たのは向こうの方だった。
それでも一心不乱に逃げようとする先輩にようやく追いついた俺は最後の力を振り絞ってその背中にアメフト選手が見たら笑いながら「勢いはいいよ!」とサムズアップしてくれそうなタックルをかました。
たまらず先輩はアスファルトに転がり、その勢いのまま思い切り倒れ込んでしまう。
呻き声を上げながらうずくまっていた先輩が起き上がった瞬間のこと。
「──逃がすかあああ!!」
飛び出して来た女の子が、ブラウスがめくれ小さなおへそが丸見えなこともスカートがめくれパンツが丸見えなことも一切気にせず、
──とても見事なドロップキックをお見舞いした。
ちなみに水色だった。