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万引きだ…。
疑う余地もなかった。
だがユッキーも後ろ側のおっさんもアイスコーナーで談笑している女子生徒達も店員すらもそれに気付かない。
なんなら先輩も見られていたことに気づいていない。
気付いていたのはきっと俺だけだ。
その先輩はタイミングを伺っているのかあるいは迷っているのか、しばらく立ち読みを続けていた。
俺も何故かその場を動けなくなってしまった。
──しばらくすると肩を叩かれる。ユッキーだった。
「ごめん圭吾、俺そろそろ塾だから──」
「…あ。おう、また明日学校でな」
小走りで塾へと向かっていく。
そして俺は取り残されてしまった。
気が動転していたんだと思う。
自分は何の関係も無いのだから、さっさと店員に先の出来事を伝えユッキーと帰ってしまえばよかったのだ。
だがその時の俺にそんな機転の効いた行動が思いつくワケもなく、ただ時間だけが過ぎていく。
立ち読みをする先輩を怪しい目で見る者はいない。
当然だ、誰も万引きの事実など知らないのだから。
他の人達にとって俺が見たことは「起きていないこと」で、現在もこのコンビニは平和そのものであるという認識なのだ。
店側が被害を被ってしまうが、冷たい言い方だがそれは俺の預かり知らぬ所の問題だ。
そんなものと関わり合いになるのはただ面倒なだけである。
ここで俺が自分の記憶を「なかったこと」にすれば面倒事にはならない。
大体そもそもこれは店員の仕事であり、俺が頭を悩ませる必要なんてこれっぽっちもない。
──いいよな…? 皆気付いてないんだ。1人くらい気付かなかったフリしてたって誰も──
心の中で言い訳のようにそんな事ばかり反芻されていく。
実際はただ勇気が出なかっただけなのに。
悪い事を悪い事ですと見ず知らずの人に言えるというのは存外勇気のいる行動だ。
躊躇いもある。見間違いかもしれないと思うと不安にもなる。
相手は先輩だ、今後の学生生活に何か支障を及ぼす危険だってある。
情けない臆病者の考え方だった。
──少しすると先輩は立ち読みをやめ俺の後ろを横切り出口へと歩き出した。
ついぞ俺は、何もしなかった。
取るに足らない自己保身にかまけて散々自分を正当化したにも関わらず何故か胸の辺りがザワザワとして、吐き気がする。
そんな自分が心底嫌いになりそうだった。