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先程までやかましいくらいだった男子の歓声はピタリと止み、皆石像のように固まっていた。
男子更衣室のドア越しに鈴音がいる。
それはつまり、先の作戦の失敗を意味していた。
いくら普段はフランクで話しやすくても鈴音は正義の生徒会長だ。
校則にも厳しいし、少しえっちい話題にも顔を真っ赤にするくらい真面目だ。
当然事前策として男子がコスプレ喫茶を提案した時も考えつく限りのありとあらゆる建前で誤魔化して鈴音の即却下を防いでいた。
男子更衣室の扉が開く。
背後すぐ近くに鈴音の気配がした。
男子更衣室に全く躊躇せずに入ってくるなんて流石鈴音、男前だな。
呑気にもそんなことが浮かんでしまった。
──恐らく、だが鈴音は全てを青崎から、あるいは言い訳をしに行った男子達から聞いたのだろう。
コスプレエロ写真か…。
退屈そうに鈴音が漏らしたのを聞いて俺達はようやく気付くのだ。
──死は免れない
「なあ、圭吾。随分面白そうな話をしているじゃないか」
鈴音の声色はどこか明るい、表情は…見えない。
──後ろを振り返れない。
俺の目の前の井上がヒッと小さく悲鳴を漏らした。
山田も杉山も三河も刈谷も
──この騒動の間一貫して、しきりにスク水こそが至高だと意見を崩さなかった鋼のスク水趣味、イケメン桐生でさえも
その数秒、呼吸すら出来なかった。
「ふむ…千鶴は犬耳尻尾つきで私は猫耳メイドか…」
としきりに鈴音は頷いていた。
平坦な声でまるでつまらない話でも聞いているかのように
「圭吾こっちを向け」
瞬間、身体が硬直する。
「あ、あの鈴音──」
「──2度は言わない」
「は、はいぃ!!」
ぐるんと90度。目にも止まらぬ早さで後ろへ方向転換する。
鈴音と目があった。
鈴音は、微笑んでいたんだ。
天使のように──あるいは悪魔のように。
「──君達もだ」
「「「イ、イエッサーー!!!!」」」
男子達がまるで鍛え上げられた兵士のように鈴音の前に整列する。
それを確認し終えた鈴音はゆっくりと、柔らかい表情のまま全体を見回した。
そして大きく息を吸うと──
「朝っぱらから………何という話をしているのだこの馬鹿者どもがあああああっっっ!!!!」
真っ赤な顔で学校中に響くかのような凄まじい怒号を放った。