7P
最近はつい千鶴を甘やかしてしまうことが多くていけない。
孫を前にするジジババか俺は。
「──じゃあ他のやつも挑戦してみるか?」
「え…ほ、他の……?」
途端に千鶴の顔色が青ざめる。
「あれだけじゃ資料不足だろ? もう何本か見てみなきゃな」
千鶴も本来の目的自体は忘れていないようである。
が、やはり1日に複数ホラーを観るのは流石に踏ん切りがつかないのか。
「……………うぅ」
何も言えずに俯いてしまった。
「……い、いまから……ですか…?」
「千鶴に任せるよ。──嫌なことを後回しにするか、先にやっておくかは」
「………あぅ」
また黙り込んでしまった。
その瞳は潤んでいて俺に助けを求めるような眼差しを送っている。
そんな千鶴の表情は非常に庇護浴を駆り立てるものだったが、何故か今日はわずかに嗜虐心が生まれてしまった。
──もう少し意地悪してみよう。俺の中の何かがそう囁く。
「──ちなみに他は全部今日のやつより怖い」
「き、今日のやつより……」
「千鶴が友達から貸してもらったやつは、正直俺でも怖い」
「に、兄さんでも……!?」
俺でも怖い、といううたい文句に千鶴の腰は更にひける。
というか既にDVDのパッケージを見てビビっていた。
「うん多分俺もビビる。──ま、でもしっかり見なきゃな~。せっかく貸してくれたんだしな~。隅から隅まで穴があくほど見て研究しなきゃな~」
わざとらしい口調で言うと形のいい眉をへの字にさせ、また唸ってしまう。
「…うぅぅぅ」
「さあどうする千鶴? どれがいい千鶴? なあ千鶴ってば」
「うぅ~~~~!! ……に、兄さんのイジワル…っ!」
しばらく唸っていた千鶴はついに俺を可愛らしく睨みつけた。
「…なんで今日はそんなにイジワルなんですか…! 私が困ってるの見て、楽しそうにどうする千鶴、どれ見る千鶴って…。……さっきまであんなに優しかったのに……バカ」
ぶつくさとつぶやくと涙目でツンとそっぽを向いてしまった。
いや、ほら。そういう所がなんかイジメたくなるっていうか構いたくなるっていうかね?
──男というのは馬鹿な生き物で、好きな娘に対しては時にドSになったりする。
…この気持ち共感してくれる人いると思うんだけどなあ。
などと益体もないことを考えつつ、むくれた千鶴に頭を下げるのであった。