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「どうもなんないって。よくある殺し文句だよ」
「そ、そうなんですか……よかった…」
ホッとする千鶴だったが、繋いだ手は未だ強く握られている。
というかいつのまにか俺の腕にしがみつくような態勢になっている。
DVDの内容よりこっちの方がドキドキものだった。
しかししがみついている本人はそれどころじゃない。
こっちが腕に当たる千鶴の柔らかい身体の感触や女の子特有の匂いに内心クラクラしそうになっている間どうにか画面の恐怖と戦っているのだ。
テレビの中では崩れそうな廃ビルを指し、ビルの地下は魔界と繋がっていて入ったら二度と出られない禁断の場所などともうチープを通り越していっそ少し厨ニ心をくすぐられそうなモノローグが流れている。
顔は出てないが偶然魔界を見てしまったという男が低い声でエピソードを語っていた。
魔界から出てこれてんじゃんこの人…。
あ、しかも声色替えてるけどこれさっきの色んな役こなしてたチャラ男だ。
服装同じだからすぐ判った。
せめてキャスト変えろよ。
などとツッコミどころ満載なこの映像もやはり千鶴は怖いらしい。
「に、兄さんはこういう危ないトコ行かないでくださいね…?」
「いや、行かないけどさ…」
廃ビル自体危険なのでそれに対しての心配なのか俺が魔界に引きずり込まれるかもしれないことに対しての心配なのか真意は定かでは無い。
「……魔界……恐ろしいです…」
いや、魔界って…結局なんなんだよ…。
──結局なんとか俺が借りてきたDVDを1枚見ることができたのだが
「何回一時停止押したんだよ…」
「………うぅ」
30分で見終わるはずのDVDは千鶴の恐怖が限界になる度一時停止して休憩、落ち着いたらまた再開を繰り返したおかげでなんと見終わるのに1時間半も掛かってしまった。
1時間半ずっと握られっぱなしだった俺の手はほんのりと赤く充血している。
よほど神経を使ったのだろう、千鶴はグッタリと疲労していた。
「で、でも……何とか見終われました…」
確かに何度も逃げそうになりつつも一本ホラーを観た事は千鶴を知る俺からみればこれはすごい事だ。
「ん。…頑張ったな」
千鶴の頭に手を載せワシャワシャと撫でてやる。
「…えへへ」
親に褒められた子供のように嬉しそうな千鶴だった。
いかん、つい甘やかしてしまう…!