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「まあでも確かにあいつはそういうの似合うかもな。スタイルいいし」
どんなコスプレをするにしろ完璧に衣装を着こなしてしまうのだろう。
「……む」
そんな具合に鈴音を褒めると、途端に千鶴はジト、と目を細めた。
「な、なんだよ?」
「……別に…。兄さんも会長みたいに胸の大きい人が好きなんだろうなと思っただけです…」
そう弱々しく呟いて千鶴はツンとそっぽを向く。
「そ、そんなことねえよ、他意はないって」
慌てて取り繕う。
千鶴は自分の背の低さや幼児体系を結構気にしてる。
よく中学生に間違えられるその童顔もコンプレックスの1つらしい。
だからだろうか、俺が胸の大きな大人っぽい女の子を何となしに褒めそやすと千鶴はこうしてむくれてしまう。
「そうだ。ち、千鶴んとこは出し物何やんの?」
なのでこういう時はさっさと話題を変えてしまった方が早い。。
「あ、そうだった。…そのことで兄さんにご相談があったんです…」
思い出したとばかりにそう言う千鶴。どうやら本題だったらしい。
「その実は……私達のクラスでは……──お化け屋敷をやろうという話になってるんです…」
「え? ま、マジで?」
「まじなんです…それも…本格的なものをやろうって……」
「あー…」
千鶴は大のおばけ嫌いだ。
おばけと聞いただけで顔をしかめるし、どれだけチープな怪談話でも音や雰囲気ですぐに怖がってしまう。
そんな千鶴がお化け屋敷?
不気味なBGMにいかにもなセット、そして真っ暗な空間の中というのはお化け屋敷の必須項目と言っていい。
当たり前だけど千鶴の苦手な要素しかないな…。
気味の悪い空間の中、客よりもビクビク怯えながら涙目になっているお化け役の千鶴が目に浮かぶ。
──だが、千鶴の話はそこで終わりではなかった。
「そ、それと…問題はそれだけじゃないんです…」
蚊の鳴くようなか細い声でそう漏らす千鶴。
「──私に割り振られた担当は……脚本なんです……」
「きゃ、脚本?」
「つまりどんな脅かし方をしてどうすれば怖がってもらえるのか…どんな内容にすれば盛り上がるのか、考えなければなりません……」
そこまで話した千鶴の表情は既に真っ白だった。
「要するに──ホラー映画の研究をしなければならなくなりました……」