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「これ、全然怖くないって大不評のやつだったんだけどな」
俺はレンタルショップから借りてきたDVDをレコーダーから取り出すとそのまま丁寧にケースへと仕舞った。
ホラーもののDVDを借りようとして「いかに怖くないか」に焦点を当てて探したのは初めての経験だった。
さもありなんである。
「…まだやる?」
チラリと千鶴を横目に見ながらそう確かめる。
「……や、やり……ます」
物凄く嫌そうだった。顔が完全に引きつっていたし顔色も青い。
「……そんなに嫌ならこの際言えばいいんだよ、お化け屋敷だけはやめてください~って」
「…私のワガママでクラスの人に迷惑をかけるなんて……出来ないですよぅ……」
まあ、千鶴の性格上それは難しいか。
人に迷惑をかけるだとか、自分の都合を押し付けるってことを一番嫌うもんな。
最も千鶴の場合こうして周りの意見を尊重し過ぎて自分の首を絞めることになるので、兄としては心配なところでもある。
……最近はこうして、少しなら頼ってくれるようになったけど。
「と、とにかく! お引き受けした以上クラスの足を引っ張りたくはありません! ──兄さん、もう少しだけお願いします」
真剣な表情で頭を下げる千鶴。
本当に真面目な妹だった。
「ま、千鶴がそういうなら俺はいくらでも付き合うけど」
何のことはないと言った感じでそう言うと千鶴はパアっと顔をほころばせた。
「ありがとうございます兄さん! ──じゃ、じゃあ……もう一度お願いします……!」
「はいよ」
シリアスな面持ちで再度テレビを睨めつける千鶴だが、状況的にはただクソつまらないホラーもののDVDを見る決心をしただけだ。
本人にとってはとっても大真面目なんだろうが、どうにもそのシチュエーションは間抜けすぎる。
──こんなんで資料参考になんのかねえ?
ふと、元も子もない疑問が頭をよぎる。
まあ千鶴も頑張ってるし、それについてはこの際些細なことだろう。
俺は再びカーテンを閉め、部屋を薄暗くしてから千鶴の隣に腰掛ける。
──そして座ったところで千鶴から先程のように弱々しく手を握られる。
あ、手を繋ぐのはデフォなのな…。
チラリと千鶴の方を見ると既になんか涙目だった。どうやら不安らしい。
千鶴の手の温度にドキリとしながらも俺はレコーダーにDVDを入れ再生ボタンを押した。




