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「千鶴……本当にいいんだな?」
「……はい。もう決めましたから……」
薄暗い部屋の中で2人きり、俺達はいつにもまして真剣な面持ちでそんな会話をする。
2人の距離はいつもより近く、また千鶴の表情は固く、そして戸惑っているようだ。迷いはまだ振り切れていないらしい。
「本当に怖いなら、やめてもいいんだぞ……? 初めてなんだろ? こういうの…」
「大丈夫です……兄さんとなら、きっと」
「千鶴……」
そう言った千鶴は微笑んでいた。心なしか顔が赤いのは照れ隠しだろう。
ギュッと手が握られる。
小さな柔らかいその手は俺の手を優しく掴み、そして包み込む。
以前の俺達には出来なかったその行為は紛れもなく信頼の証だった。
「不安か? ……きっとすぐ終わるから大丈夫だ」
それでもやはり緊張は隠せないようだ。
ポン、と頭に手を載せると千鶴は少し安心したように目を細めた。
「──よし、入れるぞ千鶴」
「──は、はい!」
そして俺は傷つけないように、出来る限り優しい手つきで
──レコーダーにDVDを入れた。
そしてテレビの画面内でおどろおどろしい不気味な文字で「本当にあった怖い話」と表示された途端。
「……っ!」
千鶴の手を握る力が強くなり、身構えるように身体を硬直させる。
゛これは、実際に私が体験した話なんですけど──゛
画面の向こうでは男性が淡々と自身の体験エピソードを語っていた。
無表情で語る素人くさい喋り方は逆に不気味さを醸し出していた。
──やがて、ある程度の所で一旦話が終わり突然メインテーマと思われる不気味なメロディが部屋内に響いた。
「……っ!!」
思わずテレビから背を向ける千鶴。
千鶴はそのまま布団にくるまりダンゴムシのように丸まってしまった。
「お、おい千鶴それじゃ意味ないだろ?」
「む、無理ですっ! もう無理ですうぅぅぅ!」
早っ! まだ5分も経ってないぞ!?
仕方ないな…。
嘆息してDVDの再生を止める。
立ち上がり閉め切っていたリビングのカーテンを開けると爽やかな青空と日差しが眩しかった。
──現在日曜、13時。今日は絶好の晴れ日和である。
「なんでこの状況でそんなに怖いかねえ」
「だ、だって……うぅ……ご、ごめんなさい……」
ダンゴムシ状態から戻った千鶴はシュンと項垂れていた。