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~幕間~
携帯が鳴っている。私のだ。
耳障りなその着信相手は、確認するまでもなくあの男だった。
5~6コール辺りだろうか、しつこく鳴り響いていた着信音は相手が諦めたのかピタリと止まる。
間髪入れずに次はメールが来る。不快だった。
「………ちっ」
自室で1人だったこともあり、思わず舌打ちをする。思っていたより自分が苛立っていたことを改めて自覚して、また1つ舌打ちをした。
こんな姿誰にも──特に千鶴や圭吾には決して見られたくない。
気は進まなかったが、いつまでも迷惑メールのように来られても文字通り迷惑だ。
気だるげな手付きで私は、つい先程来たメールを開封した。
「………っ!」
内容を見て、意味がわからなかった。次に出てきた感想は驚愕と信じられないという気持ちだった。
やがてそれは怒りという感情に全て変わっていった。
「………ふざけるなあっ!」
私から母を、自由を、家族を奪った。
未来を奪い、地位や名声や金のために私を育て上げた。
あの男の声も顔も性格も、考えも、表情も。
この血に流れる花菱という血筋そのものすら
心底、私は嫌いだった。
あいつらと同じ血が流れている
そう思うだけでいっそ体中の血液を全て抜き取りたくなってしまうくらいに怖気が走る。
我が父を名乗る男。
──花菱蔵人。
゛千鶴と会わせなさい゛
メールの本文はそれだけだ。
それでも私にはそれだけで激高するに充分すぎるほどで、その男の底の知れない企みを考えるだけで鳥肌がたった。
──絶対に、千鶴には近づけさせない。
「……千鶴」
思わず名前がこぼれる。
まるで幼子を呼ぶように、あるいは幼子が呼ぶように。
私、花菱鈴音のその言葉は誰にも聞こえないまま、深い深い静寂の中に呑まれていった。
2章 了