表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度わたくしに妹が出来ました  作者: 犬塚猫蔵
妹と初めての2人ぐらし
66/163

36P

 ──翌日、そのまま手を繋ぎ合って寝てしまった俺達は実に照れくさい朝を迎えることとなる。


 一晩中千鶴がいたせいか、女の子の良い匂いが僅かに部屋に残っていたがあまり気にしすぎると変態シスコン野郎の汚名を被せられるので、気にしないようにする。


 あ、そうそう。これは後日談だが──。

 親父達が帰ってくるまでの間俺はバイトのシフトを減らすことにした。


 さり気ない感じで店長に相談してみたところ「この機にもっと青春を謳歌してきなさい。ホッホッホ」


 と快諾してくれた。最後のホッホッホは言ってなかったかもしれないが。

 そしてなんとそれは千鶴も同じだったようで、弓道部の顧問から「練習も大事だが家のことも大事だ」となったらしい。


 その件に関しては鈴音も大層納得のご様子で


「可愛い千鶴が幸せそうで何よりだ」 


 と、カラカラ笑っていた。

 そのことを千鶴に話すと会長らしいと小さく笑っていた。

 そんな千鶴を見て、全くその通りだなと、つられて俺も笑った。


 ──今日もよく晴れたいい天気だ。

 青空を見上げながら実に晴れやかな気持ちである。

 すると間もなくちまちまと階段を降りてくる小さな影が見えた。


「お、お待たせしました…」


「いや、全然待ってないよ」


 千鶴の鞄を渡してやるとそれをおずおずと受け取る。


「あ、ありがとうごさいます。──あ。兄さん、前髪にゴミが」


 え? マジ? どこ? と聞く前に千鶴の端正な顔が急激に近くなる。

 ふわっと石鹸の良い匂いがした。


「──はい。とれました」


「……ん。さんきゅ」

 少しドキリとした。照れくさいのを隠すように顔を逸らしてしまう。

 そんな空気がなんだかくすぐったかった。


「そろそろ行くか」

「そうですね」


 あの日俺が助けた小さな女の子、千鶴は今どんな因果か俺の妹になった。

 そしてあの日俺が握った手のひらをもう一度掴むことが出来たのだ。

 

 俺達はきっとほんの少し変わった兄妹かもしれない。


 けれども間違いなく千鶴は俺の大切な妹で、千鶴も俺の妹になれて良かった、と言ってくれた。


 だから、俺達はもう1人ぼっちじゃない。

 今はそう思える。


 俺達は揃って、行って来ますを言うと2人並んでゆっくりと学校への道を歩く。


 俺達の間に流れる空気にかつての気まずさはもうどこにも無い。


 今は沈黙すらも、心地よかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ