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× × ×
「──ね? 会ってたでしょ?」
イタズラっぽく当時の俺が助けた女の子──千鶴は笑った。
「おもい、だした」
そうか、あの時の。
あの時のあの子って
千鶴。だったんだ。
「とっくに気付いてると思ってました」
途端に拗ねたような声を出す千鶴。
「私、ちゃんと名前名乗ったし。同じ学校だったし、あんなに優しくしてくれたのに──」
「だ、だって! お前公園来なかったじゃん!」
「行きましたっ! 何度も! 声はかけられなかったけど……」
ご友人と遊んでましたし…と力無く千鶴は付け足す。
「あの後すぐ私、あの時のお兄ちゃんのこと探し回ったんです。思ったより早く見つかりましたけど」
「あ、そうなの…?」
「はい。──小学校同じでしたから」
「うえええええ!!!?」
何それ初耳!
「やっぱり気づいてなかった!」
すっかりふくれっ面な千鶴だった。電気付けなくてもはっきりわかる。
「なんで、兄さんは妹の出身校も知らないんですかっ!」
「ご、ごめん…」
千鶴に怒られた…。ショックすぎて死にたい。あ、涙でそう。
もう、まったくもう。と千鶴はブツブツと文句を言っている。
こんな千鶴は初めて見る千鶴だった。
「その様子だと兄さん、もしかして中学も同じだって知りませんでしたね?」
ジト目を向け俺を見る千鶴。
「……あ、や、やっぱりそうなんだ」
ため息をつく千鶴たった。
「………兄さんのバカ……。まあ私中学まで地味で目立たない子だったから無理ないですけど……」
確かに小、中と千鶴のような優秀な生徒がいたら嫌でも耳に入るはずだ。
なのに俺はそんな話をチラリとも聞いたことが無かった。
「中学の終わりにたまたま会長と出会って……変わろうって思ったんです…」
「あー、なるほどね」
あいつそういうの大得意だから。
「とにかく、だから私は兄妹になるずっと前から──兄さんを信じてるんです。……あの時の言葉本当に……嬉しかったから……」
「千鶴…」
「ずっと声はかけられなかったけど……兄さんのことはいつだって見てました。…ずっと…話したいなって思ってました…だから──」
そう言うと千鶴は俺の手を握る。
「──私、兄さんの妹になれて良かったです」
そんな言葉と共に、いつまでも手を繋ぎ合う俺達だった。