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「そ、うちさ。母さんいないんだよ」
たはは、と笑う。
「だから親父が毎日頑張って働いて俺を育ててる」
「…私は……お父さんがいないです」
「そうか。同じだな…。まあさ、だからっていうのも何だけど許せなかったんだ。…あいつらの言葉」
あのバカ兄妹の言葉は絶対に許せるものではなかった。
だが何よりもこの女の子が言われた言葉は、俺がずっと否定したかった言葉だった。
この女の子は、どこか俺に似ている。
そんなことを感じてしまう程度にはシンパシーを覚えてしまう。
「1人でメシとかつくってんの?」
こくん、女の子は頷く。
「洗濯も、風呂も、朝起きるのも?」
こくんこくん、今度は2回頷いた。
「寂しい、か? その…お母さん1人で待つの…」
「………寂しい」
「だよなあ」
当たり前だ。こんな小さな女の子なら、きっと俺よりもずっとずっと寂しいはずだ。
でも、女の子はその続きを言う。
「でも、でも…お母さん、お父さんいないのに一生懸命働いてるから…私のために…頑張ってるから…私も頑張って……我慢…します」
それは、俺が思っていたことと全く同じ想いだった。
女の子の頭に手を載せ、そのまま撫でてやる。
「ん…」
気持ちよさそうに目を細めている姿はさながら小動物のようだった。
「お前…小さいくせに強いな」
「……また小さいってゆった…!」
小さいの気にしてんのか。可愛いと思うけどな。
「俺も同じだ。1人で親待つのってさ…寂しいよな~」
ワハハ、とそうわざと明るく言うと、女の子はハッとした顔で俺を見上げた。
「1人でなんでもしなきゃいけないし、朝は眠たいし、友達は羨ましいし。ホントろくなことねえよな」
でも、と俺は付け足す。
「頑張ろうぜ、家族は──助け合うもんなんだからな」
ニカッと笑いかける。
本心からの言葉で、俺にとって自身にすら向けた言葉。
女の子はその言葉を聞いて、初めて安心した「笑顔」を見せてくれたのだった。
「…わたしお兄ちゃんみたいな兄妹が欲しかった…」
ぼやくように女の子が話す。
「俺も俺も。お前みたいな妹欲しいわ」
そう言い合うと、なんだか2人共可笑しくなって夜の茂みの中俺達は笑い合う。
もう茂みの不気味さも夜の闇の怖さも、感じなかった。
あぁ、兄妹ってきっとこんな感じなんだろうな…。