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──数分後小さな女の子がようやく落ち着きを取り戻す。俺もようやく体力が回復した所だった。
「お前、怪我は?」
くすんと鼻をすすり上げながら女の子は答えた。
「ない、です」
「そうか、よかった。さっき、投げられたの家の鍵だろ?」
そう言うと女の子は俯いていてしまう。
「あれないと私…帰れない…」
弱々しく女の子は呟いた。
「そうだな、じゃあ探そう。俺も手伝うから。な?」
「で、でも──」
「いいから。真っ暗になる前に見つけるぞ」
手を差し出すと、おずおずという感じで女の子は俺の手を握った。
鍵を投げた方向は大体把握している。
ただ茂みの方は暗くてどんよりしているためあまり子供達は好んで近づかない。
女の子もかなり怯えていたが「手離すなよ」と笑いかけると一度こくん、と頷いて足を踏み入れた。
俺も当時は少し怖かった。なんせ子供だ。
なので、せめてもの気分転換にと俺は女の子とポツリポツリと会話をする。
「なあ、あいつら何だったの?」
「…同じクラスの子と、そのお兄さんです。私がヨシキ君からラブレター貰ったから……あやまれって…マイちゃんヨシキ君好きだって言ってたから…」
「お前もヨシキ君好きなの?」
「ううん。同じクラスだけど…話したことない、です。男の子…苦手で…」
「じゃあ、あれか。あいつが勝手にインネンつけてきたのか」
「私…マイちゃんのことあんまり知らないのに急に呼び出されて…行ってみたら上級生のお兄さんがいて……こわかった…」
「そりゃあ怖かったろうな」
俺でもそれは怖いわ。
言うとまた鼻をくすんと啜り上げた。
「だ、大丈夫だよもう! もうあいつらいないから! 怖くないから! だから泣くな!」
話してる間も一歩一歩足元を確認する。
普通の鍵に首にぶら下げる紐がついた、要は俺と同じタイプの鍵らしい。
見落とさないようにゆっくりと俺達は歩を進める。
「そういえばお前何歳?」
「…10歳です」
「一個下か。小さいな」
「……これから伸びるもん…!」
拗ねたように呟くその声が何だか可笑しかった。
「あ、あの、お兄ちゃんはどうして…助けてくれたんですか?」
今度は女の子の方から話を振ってきた。
「ああ──。ほらこれ見ろよ」
躊躇うことなく胸元の鍵を見せてやる。
「あ。──お兄ちゃんも鍵っ子…?」