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夕方の公園に俺の怒号が響き渡る。
面食らった様子の上級生だがすぐに冷静さを取り戻して
「は、はあ!? てめえに関係ねえだろ!」
と俺を睨みつけた。
「うるせえ! その子に謝れ!」
殆ど勢いのまま上級生に向かって突進する。
俺の体当たりは見事上級生の鳩尾にクリーンヒットしたようで「ぐふっ!」とか言いながら後方に吹っ飛んだ。
なおも俺はその上級生に掴みかかる、人生でこんなにキレたのはその時が初めてだったかもしれない。
「謝れ! そいつに謝れ! 親無しって馬鹿にしたこと謝れ! …親だってな、子供食わせるために一生懸命働いてんだっ! 子供だってな、誰もいない家で寂しいの我慢して、それでも頑張ってんだよ! お前らなんかよりも! ずっと! ずっと! ──お前らなんかに何がわかるってんだっ!!」
そう言い放つと俺達は揉み合いになり、殴り殴られ蹴り蹴られ。
もうしっちゃかめっちゃかだった。
いや、八割方俺がやられていたかもしれない。
喧嘩は強い方では無かったし、相手の上級生とはやはり体格も体力も差があったので相当の泥試合だったことだろう。
「くそっ! なんなんだよ、うぜえな! この! っ離せよ!」
「……あ、や……ま、れ~~っっ!!」
ドロドロでボロボロの俺がなおも食らいついて上級生に噛み付こうとする。
ここまで来ると執念なのかボロボロ過ぎて怖くなってきたのか上級生の方にも怯えの色が瞳に宿る。
「その子に……あやまれえええっっっ!!!」
ヒッと息が漏れる音が聞こえた。
遠巻きにそれを見ていた妹の方からだった。
ギラリと上級生を睨みつける。
やはりヒッという声が聞こえた。
それは俺の執念の前にこいつらの心が折れた音だった。
「……わ、わかったよ! ば、バカにして悪かったよ! くそっ! なんなんだよ! おいもう帰るぞ!」
「あ! ま、待ってよお兄ちゃん~!」
ぴゅーと逃げるようにバカ兄妹達は公園を後にした。
いや、実際逃げたのだろうが。
か、勝った………。
どれくらいそうしていたのだろうか。
後に残されたのは、傷だらけのボロボロで公園のど真ん中に大の字に倒れている俺と。
俺のそばまで駆け寄ってわんわんと泣いている小さな女の子だけだった。