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兄貴をかりだして、女の子の大切なものを取り上げて、返して欲しければ謝れと言う。
しかもその発端は下らない嫉妬だ。
その絵は誰が見ても気分のいいものでは全く無かった。
止めないと。とっさに思う。
けれど相手は恐らく俺よりも上級生だ。
スポーツをやっているのか体格もいい。
正直に言うと関わり合いにはなりたくなかったというのが本音だったがほっとけない。
内心、怯えつつもその騒ぎに近づいて声をかけようとしたその時。
俺は初めて小さな女の子が取り上げられていたものが見える。
──鍵だ。
だがそれを確認した矢先のこと、突然上級生は腕を振りあげ、取り上げた鍵を、思いきり遠くへ投げつけたのだ。
キラリと鈍く光ったその鍵は、弧を描いてそのまま茂みの方へと落ちていった。
「───あ」
女の子はただそれを呆然と見送るしか出来なかった。
恐らくあれは…家の鍵。
あれが無いと帰れないのに…。
女の子が震えるように呟いた。
立ち尽くす女の子を見下すように上級生は言う。
「家帰ってもお前ん家誰もいないんだろ? 親にみすてられてんじゃねーの!?」
その言葉にびくん、と女の子が反応した。
「親からも愛されないで、ひとりぼっちとかマジかわいそうだよねー。ね、お兄ちゃん!」
「あーかわいそうだな。お前親無しも同然だもん」
不愉快なほどに、親無し! 親無し! と2人は責めたてる。
「ち、ちがうもん、お母さん…私のことみすててないもん」
ひどく感情のない声だった。
だが、その肩は小刻みに震えていて顔は俯いていてよく見えない。
「お前なんて誰にも必要とされてないんだよ! アハハハっ!」
その言葉がとどめだった。
耐えていた女の子の瞳からぶわっと大粒の涙が流れる。
懸命に涙を止めようとするもその涙は決して止まらずに、、ついに女の子は嗚咽を上げる。
俺の耳にまた兄妹の不愉快な笑い声が届いた。
──俺が黙っていられたのは、そこまでだった。
「いい加減にしろテメエらああああっ!!!!」
「うわ! なんだお前! こいつの兄貴か!?」
3人が3人共驚いていた。が、一番驚いていたのは小さな女の子だったと思う。
だがそんなことはどうでも良かった。俺は公園中に響き渡る声で叫ぶ。
「通りすがりだ、コノヤロオオオオっっっ!!!」