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× × ×
遡ること8年前。
俺、佐倉圭吾。小学5年生の頃だった。
小学生というのは遊ぶのが仕事みたいなものだ。
勉強なんてものは苦痛でしかなく、エネルギーの全てを食って遊んで、喚いて、笑う事に使う。
文字通り元気が一番とも言うべき時代だ。
俺も例外に漏れず毎日のように友達と遊んで、笑って、はしゃいでいた。
この頃我が家の親父は特に忙しく、殆ど家を空けていたので自宅はいつだってもぬけの殻同然だった。
外に出れば友達もいる、遊びに行けばお菓子もゲームもある。
一方で家の中はゾッとするほどにつまらない。
必然、俺は一日の大半を外で過ごし、皆が帰る夕飯頃にトボトボと帰っていくような生活を送っていた。
胸元にはアクセサリみたいに紐で括りつけた鍵をいつも首からぶら下げていた。
いわゆる鍵っ子ってやつだ。
正直鍵を首からぶら下げているのは少しみっともない気もしていたが、こちとら鍵っ子歴はもう5年以上のベテランだ。
今更恥も外聞もあったものではない。
その日もいつもと全く変わらない、穏やかな夕方だった。
友達のけんちゃんもユッキーも先程まであんなにバカ笑いしていたのに毎日17時に鳴る、通称愛の鐘が鳴った途端「いっけね! 早く帰らないと母ちゃんに怒られちまう」と慌てふためきながら帰っていった。
「また明日な」と元気よく手を振りながら自宅へ走ってゆく2人をボンヤリと見送りながら俺もトボトボと自宅へ向かうことにした。
──本当はけんちゃんとユッキーが羨ましかったなんて口が裂けても言えなかった。
家に帰れば家族が出迎えてくれて、そこには団欒がある。
泥まみれの服を母親がブツクサ文句を言いながら洗濯機に突っ込む。
けんちゃん家の母ちゃんはとても料理上手で、しかも何も言わなくてもご飯を山盛りにするのでそれを毎日食べているけんちゃんは最近肥気味だ。
ユッキーには2個下の妹がいて、毎日生意気だとか可愛くないとか言いながらもいつも仲良くおやつを分け合ってる。
俺はと言えば、この時点で既にある程度自炊も出来ていたので適当に自分で作ったご飯を食べ、汚した自分の服を自ら洗濯機に突っ込み、自分で沸かした風呂に1人で入る。
そして誰もいないリビングでテレビを見ながら、ひたすら眠くなるのを待つのだ。
もう慣れたものである。