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さて、そんな訳で所変わってここは俺の部屋だ。
俺の部屋はごくごく普通の六畳間だが、まず物があまりない。
あるのは小さな本棚に机、ノートパソコンにベッドくらいで自分で改めて見ても殺風景すぎんだろ、と突っ込みを入れたくなってしまう。
貯金はあるのだからテレビやコンポでも買えばかなりそれっぽくなるんだろうが、あまり買う気にはなれない。必要としてないしな。
そんな殺風景な部屋にぽすん、と布団を敷く。
「千鶴はベッドで寝ろよ」
「い、いえ! そんな! ここは兄さんの部屋ですし、私が床で寝ますよ!」
何気なく提案するとすごい剣幕で反対されてしまった。
「千鶴いつもベッドだろ? 身体痛くしないか?」
「だ、だいじょぶです…! ベッドはまだ私にはハードルが……じゃなくて! 気を使っていただいてありがとうございます…」
ぺこりと頭を下げ、床の布団にぺたりと座り込む。
どうやらベッドを使う気は微塵もないらしい。
なんかそういうつもりじゃないんだろうけど、地味にショックだよな。
お父さんのパンツと一緒に私の服洗わないで! とか娘に言われた父親ってこんな気持ちなのかしら…?
そんな俺の気持ちを悟られないように顔を見ずに1言「じゃ、電気消すぞ」と声をかける。
千鶴が頷くのを確認した俺はカチカチっと照明から垂れ下がっている紐を引っ張り電気を消した。
真っ暗闇である。
「じゃ、おやすみ…」
「お、おやすみなさいっ」
そこからまあ当然ながら会話もなくなる。
チクタクという時計の音と右から聞こえてくるかすかな千鶴の呼吸音だけが俺の耳に入ってきていた。
──蒸し暑い夜のせいか、はたまた隣に千鶴がいるからなのか、やけにその日は寝付けなかった。
目を瞑っても、寝返りを打っても、態勢を変えたところで俺は中々夢の中に誘われない。
そんな夜はやけに思考が回る。
頭の中でグルグルと今日一日のことや最近の俺達のこと。
それと鈴音の言葉を反芻するように思い出していた。
゛千鶴は…まあ隠しているつもりなんだろうが…寂しがっている゛
いつもバイトで遅く帰る俺を出迎えてくれる千鶴。
寂しがっている素振りなど決して見せなかった千鶴は今日、どんな気持ちだったのだろう?
帰って来た時、俺がいたことで千鶴は安心できたのだろうか?