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決して浴場の方は見ないように、意識すらも四散させる。
じゃないと気になってしょうがない。
ただどう頑張ったところで思考そのものは止められない訳で、後方から聞こえる瑞々しい音の数々にどうしても反応してしまう。
なにをかんがえているんだっ! 俺はっ!
モヤモヤと頭に浮かぶ景色を振り払い、まるでボディガードの様な面持ちで妹が入浴中の更衣室前に鎮座する兄。
傍から見ると妹思いなのか変態なのか微妙な所だった。
やがて風呂場から
「あ、あのう、終わりました…」
と控えめに声をかけられる。
「お、おう」
更衣室から完全に出た後しっかりと扉が閉まったのを確認し、千鶴に声をかけ
る。
「あ、あの、まだ行かないでくださいね…?」
「わかってるよ、ドアの前で待ってる」
ドアの前で千鶴が出てくるのを待つこと数分。
ガラリと静かに扉が開けられ、当然ながら湯上がりの千鶴が目の前に現れた。
湯上がりの千鶴はやけに色っぽく、濡れたままの髪が妙に艶めかしい。
「に、兄さんも……どうぞ」
「…ん」
そんなやり取りの後俺もすぐに入浴を済ませた。
まるで煩悩を清めるかのように、冷水を浴び幾分気分もスッキリした所でやはり1人でリビングにいるのは怖かったのだろうか更衣室前で俺を待つ千鶴と共に浴場を後にした。
──だが、問題はそれだけではなかったのだ。
考えてみれば至極当たり前だ。
入浴すらも着いてきてもらっていたこの筋金入りの怖がりが、1日の中で最も暗く深い夜を1人で耐えられる訳がない。
むしろそこが一番のネックだったという事に俺は今、正にもうそろそろ寝ましょうかという時になって気付いてしまったのだ。
「あ、あ、あの……兄さん……」
パジャマ姿の千鶴は顔を俯かせながら言いづらそうに口をつぐむ。
この時点で大体何を言いたいのか分かってたのだが、もうこうなってしまった以上はどうすることも出来まい。
しばらくモゴモゴ言っていた千鶴だったが、やがて意を決したように俺に潤んだ瞳を向ける。
「こ、今晩だけ……一晩だけ……に、に、兄さんの部屋で……寝させて貰えませんか……?」
ですよねー。うんそう来ると思ってた。
「………今晩だけな」
苦笑混じりにそう言うと、ようやく千鶴は安心した顔を見せてくれた。