23P
× × ×
我が家の風呂場は割と広い。
更衣室内には洗濯機や乾燥機も置かれて部屋干しにも使えるようになっていてそれでもなお八畳間くらいのスペースがある。
浴場もそれに比例してそこそこ大きい。
ともすれば大人が2人で入ったところで何の手狭さも感じないくらいには広いだろう。
しかしだ。
だからと言って俺が妹と一緒に風呂に入るというそれなんてエロゲ? みたいなことになる訳もないのだ。
そんな都合の良い展開あるわけ無いだろ。
いくら義妹とは言え俺は千鶴の兄貴なんだ。
この場合兄だとか妹だとかという問題ではなく恋人でもない年頃の男女が一緒に入浴するということ事態が問題なのだが。
それはともかくとして、だ。
千鶴は俺を掴んで離さないし、今日一日はずっとこのままだろう。
とにかく俺は千鶴のおばけ恐怖症を侮っていたフシがある。
本当に千鶴はこのテの話しだけはダメだったのだ。
一見落ち着きを取り戻しているように見えるが、些細な物音にも敏感に反応し俺が少しトイレに行こうとするだけで不安そうな目をこちらに向けてくる。
お茶を汲みに行くだけなのにわざわざキッチンまでカルガモの子の様にくっついてくるほどだ。
そんな千鶴を無理やりひっぺがし、さっさとシャワーを浴びて部屋に戻る、な
んて真似は当然俺には出来なかった。
なので、折衷案。
今俺は浴場を背に更衣室にあるパイプ椅子に落ち着きなく腰掛けている。
後方では絶え間ないシャワーの水音と時折聞こえる千鶴の息づかい。
後ろを振り向いてしまったら多分千鶴のシャワーシーンのシルエットが見えることだろう。
雑念を振り払うように頭を左右に揺らし、手持ち無沙汰に携帯をいじる。
「に、兄さん……いますか…?」
「あ、ああ。…いるよ」
ぐぐもった声でそう話しかけられたのですぐさま答えてやる。
そう、折衷案とは「千鶴が入浴し終わるまで更衣室前で俺が待機している」というものだった。
我ながらなんともアホな話だろうとは思う。
夜中トイレに行けなくなった子供か。
だが後日母さんに聞いた話によれば子供の頃は別に怖い思いをしなくても千鶴は夜1人でトイレには行けなかったそうなので、そう考えると何かの合点はいく気はする。